道具は進化した。医者はどうだ?
〜技術革新を活かすためには日々の研鑽が重要〜

近年、腹腔鏡手術は医療のあらゆる領域で従来の手術に置き換わってきている。カメラの細径化やその画質、鉗子や電気メスの精度に至るまでほんの10年前とは比較にならないくらいです。しかし、なんといっても道具を用いるのは人間であって、心のない道具が独りでに病気を治すのではありません。直視下に行う手術と違って、腹腔鏡では通常2次元の(立体視ではない)モニターを見つつ手術を行う。また、開腹手術と比べて、離れた位置から鉗子を操作するので、手元のブレが大きく対象物に伝わってしまいます。このような特性を理解し、トレーニングを積んではじめて良い道具が自分の手となり、安全で正確な手術になると考え、我々は日常診療の合間にコツコツと自主トレに勤しんでいます。

腹腔鏡の特性を活かした骨盤臓器脱手術

骨盤臓器脱というと聞き慣れないかもしれませんが、主に子宮や膀胱が下降する疾患で、中高年の女性に多く見受けられます。臓器が下がることで、下腹部の違和感、痛みや、頻尿・尿もれ、排尿困難に至るケースもあります。以前は経膣的に子宮を摘出し、膣壁を縫縮する手術が多く行われていましたが、2-3割の再発率で、決して満足のいく治療成績ではありませんでした。経膣的にメッシュ(溶けない布状の医療材料)を挿入する方法も普及した時期がありましたが、盲目的な手技を伴うことから、膀胱損傷や直腸損傷のリスクがあることや、メッシュが露出することもあり、現在では主流とは言えません。そんな中、7-8年前から腹腔鏡を用いたメッシュ手術が行われるようになってきました。緩んだ膣壁と膀胱の間を剥離し、メッシュを装着して、前十字靭帯という腰椎の前にある強固な組織に固定する方法です。開腹手術では確認しづらい膀胱の裏面や、腰椎の近くに走行する細かい血管なども、腹腔鏡では容易に到達できたり、拡大視できたり、安全で確実な手術に威力を発揮します。治療効果も高く、再発率も5-7%と報告されています。当院ではこの腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)を保険適応で実施しています。中高年の女性の方で、該当する症状のある方は一度婦人科にご相談されてください。