2019年某月、チーム医療カンファレンスでの研修医教育の一場面より

部署:血液疾患センター
テーマ:急性骨髄性白血病患者の今後の方針について意思決定のサポート
参加者:26名(血液内科医師5名+研修医1名、看護師9名、薬剤師6名、理学療法士2名、臨床スピリチュアルケアカウンセラー1名、管理栄養士1名)

<症例>

診断:急性骨髄性白血病
症例は50代男性 近医より末梢血に異常細胞を認め白血病が疑われるとのことで当院に紹介される。骨髄検査などにて急性骨髄性白血病の診断となり抗ガン剤治療(寛解導入療法)により寛解にいたり、地固め療法を施行。

<議論の要旨>

今後骨髄移植など造血幹細胞移植を行っていく方向がいいかどうかを検討した。移植治療を行わない場合の治癒率、行った場合の治癒率、移植治療のリスク、予測される合併症などが紹介されそのうえで患者さんの意思決定をどのようにサポートすべきか議論した。

<出席者からのコメント>

医師:

主治医A 予後が悪いタイプであり同種造血幹細胞移植が必要であるが、本人から受ける、受けないという返事がない。主治医としても移植を強くすすめるべきか悩んでいる。患者さんは移植に耐えられるか不安であり、怖いという気持ちが強く移植を受けるという決断ができない状態であることが紹介された。

指導医B  最新のガイドラインでの移植適応が紹介され本例は移植が基本路線であるとの意見であった。医師Cは移植をすすめる、医師D、Eは移植は再発時でもいいのではという意見がでた。

薬剤師:

服薬指導時、患者さんは理解もよいが、現在の抗がん剤治療の副作用が強く、さらにしんどいであろうと予測される移植に耐えられるかと不安を訴えていると報告された。

看護師:

「患者さんが移植を受けると決めればご家族は全面的にサポートするといっておられる。いっぽうで患者さんもご家族も移植の話を聞きたくないと訴えている」と報告あり。

臨床スピリチュアルケアカウンセラー:

「決断の時期を逸した感がある。セカンドオピニオンや主治医の話をきいているうちに受けますと言えなくなってしまった状況にあると思われる」との見解であった。

<センター長総評>

今回のカンファレンスの中では、患者さんの逃げたい気持ちを配慮し、現状では積極的に移植をすすめず、再発時は絶対適応になるのでその際に移植をすすめることになった。今回のカンファレンス後のアンケートでは、「カンファを通じで病気の理解が深まった」「職種のちがうそれ視点からの意見を聞くことができ、病気の理解と患者さんの思いを知ることができた」という意見があった。

カンファを通じて学んだこと〜研修医の視点から〜

今回のカンファレンスを通して、一人の患者さんに対して多職種が様々な方向からかかわっていることがよくわかった。

医師の立場としては、もちろん患者さんのメンタルケアにも配慮を行う必要はあるが、ガイドラインやエビデンスに基づいたより成績の良い治療方針や、それに伴う致死的な合併症に関しても情報を提供する役割を果たさなければならない。それらをもとに患者さんやご家族は治療選択について考えるが、合併症のリスクを考え不安が大きく治療選択に迷うことも多いと改めて実感した。患者さんやご家族としては治療に関する不安は医師には訴えにくい部分もあると予測された。今回の症例でも看護師、薬剤師、臨床スピリチュアルカウンセラーなどの介入により、患者さんやご家族の「合併症が怖くて決断できない」という訴えが聴取できていたことで、方針決定の助けとなった。

このように本人・ご家族の気持ちや納得のいく選択について多職種で真剣に考えることが、意思決定のサポートとなることを知ることができ、患者さんがより良い治療を受けるために必要不可欠であると感じた。

研修医を医療人として育てていくために〜All for Oneの府中病院研修医教育〜

血液疾患センターでの研修医教育は、診断、治療、手技を教えるだけでなく、患者さんの社会的背景や気持ちをくみいれること、患者さんに多職種がかかわって退院にむけて努力していることを学んでもらうことにも尽力している。

今後も研修医に積極的にカンファレンスに参加してもらい、幅広い人格を備えた医師に育ってもらえることを願っている。