病理検査室(細胞診業務)について

皆さんこんにちは。臨床検査室・病理検査担当の山下と申します。今回は病理検査室の業務を少しご紹介させていただきます。病理というと、臨床検査の中でもマニアックだとか、変な人が多いとか言われがちなんですが…

そんなことはないですよ(多分)。

病理検査室の業務には大きく分けて『病理組織診断』、『術中迅速組織診断』、『細胞診』、『病理解剖』があります。病理部病理診断科の病理医(主に診断業務)と病理検査技師(主に標本作製・検体管理・細胞診)とで連携・役割分担をして行っています。その一つである細胞診業務について少しお話しさせてもらいます。

細胞検査士について

認定資格の一つとして細胞検査士があります。その名の通り、細胞を検査する仕事です。当院病理検査室には細胞検査士資格を有するスタッフが5名在籍しております。若いスタッフも取得を目指して勉強中です。

検査するにあたりまずは患者さんの体から細胞を吸引したり、擦過したり、尿や胸水・腹水といった液状検体から細胞を集め、顕微鏡的に観察するための標本を作製します。

その標本を顕微鏡で観察し、がん細胞と非がん細胞をふるい分けする業務(スクリーニング)を担い、病理医あるいは細胞診専門医とともにがんの診断を付けていくのが細胞検査士です。この業務の当番になった時は一日中顕微鏡をみている日もあります。見落としがない様に注意深く標本上の細胞全体を観察しないといけないので神経を使う業務ですが、やりがいのある仕事です。

また、遺伝子検査など技術の進歩に則した標本作製・検体保管などを行う事も必要ですし、各科のガイドラインや取り扱い規約変更なども業務に影響してくるので学会やセミナー、ワークショップなどに参加し技術・知識などの勉強・情報収集も必要です。

細胞検査士になるには

どんな検体をみているの?

細胞診で観察する検体は多種多様です。採取方法によって大まかに分けられます。

  • 剥離(はくり)細胞診
    組織から自然に剥離した細胞をみます。喀痰や尿、乳汁、胸水、腹水などに剥離した細胞がたまっていることがあり、それを採取して標本を作製します。
  • 穿刺(せんし)吸引細胞診
    針を刺して病変を採取するため、乳腺や甲状腺、リンパ節など体表に近い病変や組織から細胞を採取することができます。EUS-FNAと呼ばれる胃カメラ下でエコーを行い、胃の内腔から粘膜下腫瘍や膵臓などを穿刺する検査もあります。これらは外科外来や内視鏡室に出向いて、細胞を採取してその場で検体処理をしたりもします。
  • 擦過(さっか)細胞診
    組織の表面を専用のブラシでこすって細胞を採取します。子宮頸部や気管支、胆管、膵管などで行われます。
  • 捺印(なついん)細胞診
    生検や手術などで採取された組織をスライドガラスにポンポンと押し当て細胞を採取します。

採取方法によってその後の標本作製までの細かい手順等が変わることはありますが、以降の標本観察に大差はありません。

顕微鏡でみているもの

病理組織診断も細胞診もミクロンレベルの細胞を観察し、光学顕微鏡を用いて行うのは共通です。病理組織診断が主として細胞の集まりである組織の構造を観察するのに対して、細胞診は個々の細胞についての形態的な変化を観察して良悪などについて判断します。

判断するためにはまず、身体の各部分の正常の細胞や構造を知っていなければなりません。正常の細胞からどれだけどんな風にかけ離れているのかで反応性変化なのか、異形成なのか、悪性なのか…と細胞をふるいにかけていくという感じです。

病理組織診断と細胞診~似ているようでここが違う~

上記に書いたとおり、細胞だけでなく組織の構造も診断する病理組織診断があるなら細胞診って必要なの?

すべて組織診で行えばいいのではないの?と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。

似ているようで組織診断には組織診断の、細胞診には細胞診の特徴があります。

極端な例え話ですが(例え話ですよ)

血尿がでて、悪性かどうかを調べたい時に、

「じゃあ病理組織でくまなく調べて確定診断をつけるために腎臓と尿管と膀胱と尿道をとりましょう」とはなりません。病理組織診断は目的の組織そのものをとってきて標本を作製し、顕微鏡診断をしているのでそこに悪性所見があれば、悪性と確定診断がつけられます。ですがいきなり臓器をとられたら…もはや事件です。

では、

「じゃあまずは、尿の中に悪い細胞がいるかいないかを調べてみましょう」…これが細胞診の検査です。確定診断ではないですが、まずそこに悪い細胞があるのか無いのかを調べるスクリーニング検査の意味合いが細胞診には含まれます。そして、尿を採取するというのは組織を採取するのに比べ容易で侵襲性も少ないです。ただし、どこに病変があるのかは推定しかできません。この例でいうと尿は腎臓で作られ、尿管を通り膀胱に溜まり、尿道を通って排出されます。細胞の種類や形態である程度推察はできますが、通ってきた臓器のどこから悪い細胞が剥がれたのかの確定は困難である、と言うわけです。

ざっくりまとめると

○病理組織診断

  • 確定診断をつけるために行う。
  • 患者の負担は大きい(侵襲性あり)。
  • 組織型や由来臓器の確定が可能。
  • 検索範囲は組織を採取した部分。

○細胞診

  • スクリーニングの意味合いが大きい。
    (ただし、組織採取が困難な箇所の細胞診では、確定診断により近い診断を求められる場合もあります。)
  • 患者さんの負担は組織診断よりは小さい(尿や喀痰のように自然に排出される検体もある。)
  • 組織型や由来臓器の推定が可能。
  • 検索範囲は細胞があったエリア。

あと、標本の作り方は今回触れませんでしたが(専門用語も多く長くなるので)、病理組織標本の方が細胞診より時間がかかります。この点も、大きな違いの1つです。

【同一症例の細胞像と組織像(子宮頚部)】

最後に

このように、似ている様で違う病理組織検査と細胞診検査ですが、迅速かつ正確な診断結果が出せるよう心がけ業務にあたっております。「こんな検査もあるんだな」と知っていただけたらうれしいです。ここまで読んでいただいてありがとうございました。