1.膵臓の機能と構造

膵臓は、みぞおちの部分で、胃の裏側・背骨の前側にあります。右側を膵頭部、中央を膵体部、左側を膵尾部と呼びます。膵臓の機能としては、①食物の消化、②胃酸の中和、③血糖の調節という3つの重要なはたらきがあります。アミラーゼやリパーゼを代表とする消化酵素およびアルカリの膵液が膵管を通じて十二指腸に流出し、食物の消化と胃酸の中和にはたらきます。また、血糖調節に重要なインスリンをはじめとするさまざまなホルモンも血液中に分泌します。

2.膵臓がんとは?

膵管の腺組織由来の浸潤性膵管がんがその大半を占めますが、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)や粘液性嚢胞腺がん、神経内分泌腫瘍なども発生します。

膵臓がんは、日本人男性のがん死亡数の第4位、女性の第3位を占めており、年々増加傾向にあります。膵臓がんは他のがんに比べ、悪性度が高いことおよび早期発見が難しいことより、一般的に難治がんに相当します。膵臓がんのリスク因子としては遺伝、喫煙、肥満、糖尿病などがあり、膵臓の異常所見として膵のう胞性病変や慢性膵炎があげられます。

3.症状

腹痛が40%で最も多く、次いで黄疸が15%にみられます。そのほか腰背部痛や体重減少がありますが、症状がないことも多く早期発見が難しい要因となっています。また糖尿病の発症、悪化も膵臓がんの患者さんに多くみられる症状となっています。

4.膵臓がんの検査方法

血液検査:血液中の膵酵素(アミラーゼ・リパーゼ)の上昇、およびがん進行にともない胆管が狭窄するとビリルビン・ALP・γ-GTPなどが上昇します。また、腫瘍マーカーとしては、CEA・CA19-9・SPan-1・DUPAN-2などが有用です。

画像診断:腹部エコー・腹部CT/MRIなどで膵に発生した腫瘍の描出が可能です。ERCP(内視鏡的逆行性胆膵管造影)やEUS(超音波内視鏡)による細胞診、組織診をおこない確定診断にいたることもあります。PET検査を含めた画像検査などから総合的に判断することもあります。

5.膵臓がんの病期(ステージ)

がんの大きさ、膵臓の外への浸潤、リンパ節への転移、肝臓や肺などの膵臓から遠い組織への転移(遠隔転移)によってⅠ期からⅣ期に分類されます。

Ⅰ期
膵臓の内部に限局しており、リンパ節転移がない。大きさが2cm以下はⅠA期、2cm以上はⅠB期
Ⅱ期腫瘍の一部が膵外に出る。リンパ節転移なしはⅡA期、リンパ節転移ありはⅡB期
Ⅲ期腹腔動脈または上腸間膜動脈にがんの浸潤を認める。
Ⅳ期肝臓、肺、腹膜、大動脈周囲リンパ節などへの遠隔転移を認める。

6.治療方針

膵癌診療ガイドライン2019年度改訂版より一部抜粋・改変

①手術:

膵臓の原発病巣とともに周囲のリンパ節や膵外神経叢を切除します。がんが膵頭部にある場合には、膵頭部・十二指腸・胆管・胆嚢・胃の一部などを切除する膵頭十二指腸切除術が行われます。がんが膵尾部にある場合には、膵臓の左半分と脾臓合併切除する膵体尾部切除術が行われます。がんが膵臓全体におよぶ場合は膵全摘術をおこなうこともあります。また切除が困難な膵臓がんで十二指腸がせまくなり通過障害をみとめた場合は胃と腸を吻合したり、黄疸が出ないように胆管と空腸をつなぐバイパス手術をおこなうことがあります。

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②放射線治療:

膵臓の病巣を中心に放射線を照射する治療。一般的には、毎日照射していき、1か月前後の治療期間を要します。化学療法と併用することもあります。

③化学療法:

膵癌診療ガイドラインにしたがい下記の化学療法をおこなっています。

●手術が出来ない場合や再発した場合の化学療法
  1. ゲムシタビン塩酸塩単独療法
  2. S-1単独療法
  3. FOLFIRINOX療法
  4. ゲムシタビン塩酸塩+ナブパクリタキセル併用療法
  5. ゲムシタビン塩酸塩+S-1併用療法
  6. オニバイド+5-Fu/LV療法
●術後補助化学療法

膵がんの手術後に一定期間、化学療法を受けると再発しにくくなったり生存期間を延長したりすることが示されており手術後に下記の化学療法をおこないます。

  1. S-1単独療法
  2. ゲムシタビン塩酸塩単独療法
④術前(放射線)化学療法:

膵臓がんは早期に周囲の組織に浸潤して転移をきたすことが知られており、手術をおこなってもすぐに再発することが多く、治療成績はいまだ満足のいくものではない難治がんとして知られています。しかしながら、最近のトピックとして膵臓がんに対し放射線や抗がん剤治療をおこなってから手術をおこなう術前(放射線)化学療法が有効な治療法として報告されており当院でも進行膵がんに対し術前(放射線)化学療法をおこなっています。

膵臓がんの手術について

① 膵頭十二指腸切除術

膵頭部・十二指腸・胆管・胆嚢・胃の一部などを切除する膵頭十二指腸切除術がおこなわれます。また、胃の周囲にリンパ節にリンパ節転移が認められない場合には、全胃を温存した幽門温存膵頭十二指腸切除術が選択されることもあります。

右図に主な切除範囲を示します。また、残膵の膵腋を消化管に誘導するために膵と腸の吻合(膵空腸吻合)、および胆汁を腸に誘導するための胆管空腸吻合、胃と腸を吻合する胃空腸吻合が必要になります。

【膵頭十二指腸切除後の状態】

② 膵体尾部切除術

膵体部や尾部に発生した膵がんに対しては、通常、膵体尾部および脾臓合併切除術がおこなわれます。消化管・胆管・膵管の再建が不要であり、前述の膵頭十二指腸切除に比べ、体への負担は軽度です。

右図のような切除範囲となります。

当科の特徴

肝胆膵外科高度技能指導医・高度技能専門医を中心にチームを構成し、術前治療を組み合わせた積極的手術治療をおこなっています。

局所に進行した膵臓がんに対しては術前(放射線)化学療法をおこない治療成績の向上を目指しています。取り残しのない手術を目指すため門脈に浸潤を認めた膵臓がんに対しては積極的に門脈合併切除・門脈再建をおこなっています。

最新の画像診断機器を用いて画像を3次元に再構築し、腫瘍と周囲の脈管との関係をいろいろな角度から検討することにより詳細な術前シミュレーションをおこなっています。

放射線科、消化器内科と密接に連携し、遅滞ない診断、減黄処置をおこない手術までの時間短縮をこころがけています。

適応があれば、腹腔鏡やロボット支援下手術を積極的におこなっています。