骨盤臓器脱について

骨盤臓器脱(pelvic organ prolapse: “POP” と略すこともあります)は、主に子宮や膀胱が膣壁を伴い下降する疾患で、出産経験のある中高年の女性に多く見受けられます。これら骨盤内の臓器が下垂することで、下腹部の違和感、痛み、頻尿・尿もれ、排尿困難に至るケースもあります。外来診察でお話をお聞きしていると、“お風呂に入った時に、まず陰部に触れるものを感じはじめた” と仰る方が多いので、婦人科を受診する一つの目安になるかもしれません。下垂が進むと、歩行や立ち仕事の際に膣壁や子宮の一部が陰部より脱出するようになり、かなり屋外での生活に支障を生じることもあります。

治療法について

骨盤臓器脱を疑った場合、まず診察で下垂の程度を評価します。具体的には POP ステージというものをつけて、ステージ 1 ~ 4 に分類します。(図 1)

ステージ 1 は生活指導や自覚症状が強ければ外来でペッサリー(図 2)挿入などを考慮します。

ステージ 2 以降は基本的に手術となります。従来よりPOP に対する手術は膣式に子宮を摘出し膣粘膜を縫縮する方法と膣式に非吸収性のメッシュを挿入する方法が主流でしたが、2016 年に腹腔鏡でメッシュを挿入する術式(腹腔鏡下仙骨膣固定術 :LSC)が保険適応され、導入する施設が増加しています。

(図1) POPのステージ分類(女性下部尿路症状診療ガイドラインより、一部改編)

(図2) ペッサリーのイメージ

腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)について

骨盤臓器脱(POP) の手術では脱出した組織を還納(もとの位置に戻す)し、再脱出を防ぐことが重要となります。そのため緩んだ組織をどこか強固な部位に固定することが有用です。

LSC(図3) では子宮を亜全摘し、残した子宮頚部にメッシュを装着し、腰椎または仙骨の前にある前縦靭帯という強い組織に固定します。従来の子宮全摘 + 腟壁形成術では再発率が 20-30%と報告されていますが、本術式では 5-7%程度とされており、有望視されています。当院でも現在第一選択として考えております。腹腔鏡を用いるため手術創も 1-3cm の 3 カ所と小さく、術後の仏痛も軽減されています。経膣的にメッシュを挿入した場合、メッシュびらんという膣壁からメッシュが露出する特有の合併症が数 %ありましたが、LSC ではほとんど生じません。実際に手術を考慮する際にはMRI または CT にてメッシュ固定部位に大きな血管が走行していないか、また腹腔鏡を行うにあたって支障となるような合併症が無いかなど確認し、適否を判断しております。

決して稀なご病気ではありませんので、子宮脱かな?と思う症状があればどうぞお気軽にご相談ください。

※現在、ロボット支援下手術でも対応しております。

(図3)

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