リハビリが必要な病気〜特に当院では脳卒中が多いです〜

日本では介護が必要となった原因(平成28年度国民生活基礎調査)の認知症(18.0%)、脳卒中(16.6%)、衰弱(13.3%)、骨折転倒(12.1%)となっていますが、認知症や転倒には脳卒中が原因となるものも含まれており、脳卒中は要介護の原因として大きな割合を占めています。

当院の回復期リハビリテーション病棟は、年間およそ100名前後の、院内外の主に脳卒中患者さんをお受け入れし、再び自宅で過ごせるように、リハビリによる機能改善を目指しています。

医師・看護師に加え実際に訓練に当たる理学療法士・作業療法士・言語聴覚士はもちろん、退院転院調整や介護サービスの調整を行うソーシャルワーカー、薬剤師・管理栄養士、介護福祉士など多くの専門職が、患者さんの「自宅に帰りたい」を叶えるために365日治療に携わっています。

当然、患者さんは全員が再び自宅で過ごすことを希望されます。しかし、各種調査では脳卒中後の自宅復帰は約65%程度で全員が自宅に帰れるわけではありません。自宅退院には、本人の努力、ご家族の支え、デイサービスやヘルパーなどの介護サービスが必要となります。

患者さんが自宅に帰れるかどうかは、病気の重症度によってのみ決まるのではなく 、ご家族の介護能力によって左右されます。つまり、重症であっても家庭内復帰が可能な場合もありますし、逆に、かなり軽症であっても施設入所になってしまう場合もあるということです。特に経済的理由から仕事の調整が付かずご家族が介護負担を担えなく、自宅退院の大きな障壁となる場合もあります。

入院中のリハビリテーション〜やるかやらないかを決めるのは本人〜

ひとくちに脳卒中といっても、どのような障がいがあるかは脳血管の損傷を受けた部位や程度によって異なります。半身麻痺などの運動機能障がい、食べ物の飲み込みが難しくなる嚥下障がい、言葉が話しづらくなる構音障がいなど多種多様なため、リハビリもそれぞれの患者さんに応じた訓練が必要です。

改善のスピードや到達する能力は個々の症例で異なりますが、一般的には訓練量が多いほど、獲得できる能力は高くなります。リハビリは訓練であり他の治療のようにベッドで臥床しているだけでは改善することはなく、基本動作を根気よく繰り返すことが要求されます。これは、脳卒中は発症し精神的落ち込んでいる患者さんにとっては、非常に強い負担を強いることになります。そのため、積極的にリハビリに取り組めない患者さんや、さらには訓練を拒否する患者さんもなかにはいらっしゃいます。

リハビリ訓練量以外の要素として、自宅に帰れるかどうか最大の課題は「排泄が自立できているかどうか」になります。特に夜間の排泄に介護が必要な場合は特に男性は自分の能力を理解せず、ご本人の負担(夜間オムツ使用やヘルパー・デイサービス)を受け入れず、ご家族(特に妻)に依存する傾向があります。

当院では退院が近付くと、まずはスタッフと一緒にご自宅を訪問し、患者さんの体の状態に合わせ、トイレに手すりをつけたり、段差をなくしたりといった家屋の改造が必要かどうか調査にうかがい、住宅改修についてのご指導をさせていただきます。これは患者さんが自宅で、無理なく安全に生活するためのハード面での工夫です。さらに、試験外泊をお願いし、夜間を含め、自宅活動の問題点を洗い出し、訓練の仕上げを行います。

また、自宅で過ごしていただくためには「まひに対する訓練」と「残った能力を開発する訓練」も重要です。まひがよくなるのか、ならないのかを判断することは極めて難しい問題なので、実際のリハビリテーションは「まひに対する訓練」と「残された能力を開発する訓練」を同時に行っています。

例えば、半身がまひし歩けなくなった場合には、歩く訓練と並行して、残された半身で、車いすを操作する訓練をすることになります。

患者さんの中には、車いすの訓練を始めようとすると「まひはもうこれ以上、よくならない」という”宣告”と受け止め、訓練を拒絶されたり、関節の動きをサポートするために装具を装着することを拒否される方もいらっしゃいます。しかし、今の体の状況に合わせて適切な装具や補助器具を用いることは自宅に帰るためのリハビリに非常に重要です。悲観的に受け止めず、自宅に帰るまでのステップとして前向きに受け止めていただければと思います。

退院後のリハビリテーション〜「自分でできる」を叶えるために〜

リハビリを通じて獲得した機能を維持するためには、練習でできるようになった動作を、苦労しながら自分で日常的に続けることが退院後のリハビリにとって大切です。ただし、発症前までは楽にできていた動作でも、発症後は何倍も労力が必要で、その努力を継続することが必要です。これは決して楽なことではありません。

患者さんの中には、食べることが唯一の楽しみとなり、食べることを制御できず体重が増え、動けなくなります。そうすると筋力が落ち、機能が低下し動けなくなり運動量が低下します。でも食べることは諦められず・・・といった悪循環におちいり、どんどん機能が低下してしまう人もいらっしゃいます。

ご自宅に戻られても、気持ちを強く持ち続け、日々の生活の中でも身の回りのことを自分自身で行い、リハビリで獲得した機能を維持し続けることが大切です。ご家族に甘えず、自分でしっかり体を動かして「自分でできる」を叶えてください。