当院泌尿器科におけるロボット支援手術の歩み

2016年6月から、当院の泌尿器科においてロボット手術支援装置である“da Vinci Si”を用いた手術が始まりました。まず、はじめに前立腺がんに対するロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術(RARP)を開始しました。

また、2017年10月からは、腎がんに対するロボット支援腎部分切除術(RAPN)を、2019年8月からは“膀胱がんに対するロボット支援膀胱全摘(RARC)+尿路変向手術”を開始しています。

ロボット支援手術装置(ダヴィンチ)は、2012年に最初に泌尿器科分野の前立腺がんに対する前立腺全摘術で保険適応となりました。ロボット支援手術は、腹腔鏡手術であり、出血量は非常に少なく、手術創も小さいため手術後の痛みも少ないことが特徴です。特に泌尿器科手術において、ロボット支援手術の優位性が証明され、従来の腹腔鏡手術より正確で精密な手術が可能となり、医療保険点数においても証明されています。

*Robotics Assisted Radical Prostatectomy(RARP), Partial Nephrectomy(RAPN), Radical cystectomy(RARC)

最初は前立腺がんに対するロボット支援手術

まずは前立腺がんに対するRARPについてですが、術後の傷口が小さく、出血量が少なく、体への負担が軽減され、 排尿機能温存の可能性が高まります。

傷口が目立たないことや、回復が早く退院までの期間が大幅に短縮されます。

従来から問題視されている術後尿失禁に関しては十分尿禁性が維持できるよう心掛け、術後1カ月で尿パッドなしで生活ができている患者さんが40%以上で3カ月では65%程度で6カ月では85%程度となっており、多くの患者さんが排尿の不安がなく生活していただけております。

次に腎がんに対するロボット支援手術

次に2017年10月から腎がんに対するロボット支援腎部分切除術(RAPN)を開始しました。従来の腹腔鏡手術では困難であった腎上極の腫瘍や埋没型の腫瘍、腎臓の中心部分に近い腫瘍や、腫瘍径が4-7㎝の腫瘍に対しても、ロボット支援手術では腹腔鏡下の手術が可能となりました。腎がんのガイドライン上においても4cm以下の腎腫瘍は腎機能温存の面からも腎部分切除術が奨励されており、腹腔鏡手術よりもロボット支援手術の優位性が証明されております。

T1までの腎がんに対しては基本的にはRAPNを施行しています。慢性腎臓病(CKD)や保存期腎不全で加療中の腎機能障害のある患者さんや、片腎にできた腎がんに対して、腎臓を摘除することは透析導入となることを意味しており、腎部分切除術が腎機能保持のためには必要で、さらにロボット支援での手術で制がん性と機能保持にも優れた手術としてRAPNを行っています。当院でのRAPNについては、現在片腎での手術においてもCKDでG5の状態でもRAPN後透析導入とはなられておりません。またRAPNを開始して2019年10月までで、合計23例施行し、全てががんであり、全て断端陰性で(がんの取り残しなし)、透析に至った症例もなく、輸血も行っておりません。

ついに膀胱がんに対してもロボット支援手術スタート

2019年8月から膀胱がんに対するロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘術(RARC)を開始しています。開腹術と比較し、膀胱全摘に要す手術時間も短く、出血量は大幅に減少し、現在まで輸血を行った方はおりません。手術後の回復も早く、開腹術と比較し低侵襲な手術です。尿路変更においては腫瘍の位置に制限されますが、可能な限り回腸を利用した代用膀胱を作成し、術後2カ月経過後で約250-350ml尿量を腹圧排尿ではありますが、尿道からの排尿が可能となっております。できるだけ腹部にストーマを作成することなく尿道からの排尿の実現を心がけています。代用膀胱の作成の適応とならなかった場合に関しても同様に回腸を利用した導管を腹部に導き、ストーマを作成し、腹部より排尿を促す術式を施行しています。膀胱がんに対するロボット支援手術は10月末現在まで4例施行し、代用膀胱2例、回腸導管2例を施行しています。