当院での内科当直の実際
当院は年間5,000件もの救急患者さんが来る救急病院です。内科、外科、整形外科、産科がそれぞれ当直を行っています。
私たち循環器内科では、府中病院の臨床研修プログラムの中で研修医の先生たちが当科ローテートを通じてメキメキと成長してくれることを見るのがとても楽しみです。特に2年目研修医の先生は、医者人生の中で最も臨床能力が伸びる時期であり、その時期にどのような経験を積むかで、後期研修以降の臨床医としての能力に大きな差がつきます。
初期研修期間中は、どんな研修医にとっても非常に忙しい時期であり、人によっては当直を負担に感じる研修医もいますが、実は当直こそ若手が育つ絶好の機会です。当院でも研修医の先生方に成長してもらえるよう、指導医と上級医を含めた内科当直医4人の体制で、研修医にとって実りある当直を日々実践しております。
また、当院の教育体制は指導医、上級医だけに限らず、経験豊富なコメディカルスタッフからの指導も充実しています。日々の臨床現場で看護師、臨床工学技士、検査技師をはじめとしたベテランスタッフたちが、OJTで研修医に対して多職種の様々な視点から気づきのアドバイスをくれます。
今日は循環器当直の一場面から、実際に多職種のチーム医療がどのような研修医のOJTにつながり、府中病院の明日を担う人財が育っていくのか、医師だけでなくチーム全員で人を診る内科診療とはどのようなことなのか、尊敬し感謝できる先輩、同僚の存在がどのように人を育てていくのか、ご紹介したいと思います。
研修医を成長させた真冬の救急外来
ある冬の日、「きょうは急激に寒くなります」と天気予報でいっており、なんだか嫌な予感を感じつつはじまった内科当直の夜。日付が変わり救急外来がひと段落した午前2時に、初期研修医2年目のA先生に救急担当の看護科長よりコールあり。
看護科長「和泉救急から 救急搬送の依頼です。40歳、女性、1時間前に胸痛で、現在、血圧は120/82、脈拍数78、呼吸数は20回です。5分-10分で到着です。」
研修医A「わかりました、救急室向かいます。」
当直室から、救急室に向かいながら 研修医Aはこれまでの研修で経験していた症例(内科で担当した心筋梗塞、胃潰瘍、肺塞栓、大動脈解離、胸膜炎、気胸、など)を頭に思い浮かべ、救急搬送されてくる患者のことを考えた。「何の病気かな? 年齢は比較的若い、きょうはこの冬一番の寒さと言っていたよな」など、心筋梗塞、大動脈解離などの心血管病の可能性を想起しながら救急室へ向かった。
看護科長「救急入ります!A先生お願いします!」
救急搬送口に到着すると同時に当院のベテラン看護師が救急車のストレッチャーからベッドに移動の際に、「せーのーで、よいしょ」と移動。その際、ベテラン看護師が「この患者さん、すごい汗ですね」と一言。
研修医Aはバイタルが安定していることを確認すると、問診、聴診を行い、検査のオーダーをてきぱきと指示した。
Aの印象としては「いまは胸痛なし、顔色等はそれほど悪くなく、今は症状が消失している。比較的若い患者さんで、特に気になる既往もなく、目立った異常所見はでていない。」ため、さきほど頭に浮かんだ心筋梗塞や大動脈解離の可能性は低いと考えた。しかし、ベテラン看護師の一言「すごい汗」が耳に残っており、改めて問診をしてみると「胸痛時には冷汗も伴っていた」ことがわかり、以前早朝の勉強会で聞いた「データだけではない、冷汗を伴うことは随伴症状として、重症度が上がる」という循環器内科部長の言葉を思い出し、すぐにその日に当直している、15年目の上級医B医師に電話。
研修医A「B先生ですか? 深夜にすみません。いま来た救急患者さんがちょっと気になって。。40歳女性、主訴は胸痛、バイタルは安定して採血、心電図などに特に問題はないのですが、冷汗が気になって。。。」
上級医B「わかった、見に行くわ」
B先生は夜中にかかわらず、気持ちよく、救急室に来てくれ、A先生と一緒にすぐに救急室の心臓超音波検査を行った。まず血圧など安定していることを確認し、心臓超音波検査をA先生が行った。
A先生は研修医であるが、この2年間で、様々な科で超音波検査を行いだいぶ慣れてきたつもりである。まず自分で心臓の超音波検査を行った。
A先生「心尖部(心臓の先端)の動きがやや低下しているような気がします。」
B先生はA先生に変わって、エコー検査を行うと、A先生に向かって、「血液検査、心電図では問題ないけれども、先生の指摘通り心臓超音波検査ではを動きが低下しています。不安定狭心症の可能性があり、緊急カテーテル検査を行いましょう。」このことで、緊急心臓カテーテル検査を行うことを決定すると、てきぱきと放射線技師など、緊急心臓カテーテルチームが招集され、約30分でカテーテル手術の行える体制が整えられる。
緊急カテーテル検査の結果、心臓を栄養する血管(冠動脈)がほぼ詰まっていた。そのままカテーテル治療に進み無事治療が成功し入院となったが、幸い数日の入院で退院となった。
カテーテル手術を終わって、B先生は翌日の申し送りの際に、A先生に今回の症例を通して、ほぼ診断から治療まで問題ないことを説明し、よく頑張ったことをほめた。
A先生は、不安定狭心症を見逃さなかったことに安心すると同時に、異常所見に乏しい状況で看護師の一言からうまく診断に結び付けられ少し自信がついた。A先生は当直を通じて、もし自分が教科書的な先入観にとらわれて判断していては危なかったこと、臨床経験の豊富な看護師をはじめとした多職種の声がチーム医療にいかに大切であるかを学んだ。
<指導医の言葉 田口晴之(循環器内科部長)>
当院の初期研修プログラムにおける「All For One」の精神は、患者(One)のために医療スタッフ全員(All)が力をあわせることは勿論、まだ経験の浅い若手医師(One)を多職種のベテランスタッフ全員(All)で見守り育てることも大事にしております。
府中病院の大きな強みである「垣根のない助け合い」は、院内それぞれの部門で多くの人財を育てています。これからも当院の誇るべきチーム医療が、現場を舞台に多くの優秀な若手医師を育てることで、泉州だけでなく国内外の医療に貢献していければと思います。みなさま、これからも府中病院の「All for One」をどうぞよろしくお願いいたします。