内科医として急性期治療の手応えを感じることのできる2か月間

当院は、総合病院であり、ローテートは、内科、外科、救急を基本ローテートとして、その中で内科は○○内科○か月、というように、他の研修医の先生との希望を調整しながら、できるだけ希望が叶うようにローテートが組まれていきます。私たち循環器内科も、研修医の先生からローテート先として選んでいただけることが多く、「将来やるなら絶対カテーテル!」と心に決めている先生は少数派ですが、「他の科に行っても心電図で困らないようにしたい」「できれば心エコーで簡単にさっと評価できたら役に立つ」「輸液や重症管理が少しでもわかるようになりたい」など幅広いニーズでローテートしていただいています。いつも2~3人の研修医の先生にローテートしていただいており、慣れてくると、複雑な手技を必要とするカテーテル治療では、研修医の先生に即戦力として、道具の管理やあと1本手が欲しいときに、頼もしい助っ人となっていただくこともあります。私たち循環器内科で扱う内容は、心電図を始めとして、心エコーの難しい指標など、ややハードルが高いイメージがありますが、むしろ単純明快でクリアカットであることが多いです。カテーテル治療では、カテーテルを始め、ワイヤ、バルン、ステントなど色々なデバイスがあって、道具を使って内科志向だけど手術を行いたい人や、工夫をして何かを作り上げていくのが好きな人にとっては、とても楽しい分野であると思います。私たちは、そんな循環器内科の魅力を、すこしでもローテートしていただいた研修医の先生に味わってもらえたら、と考えています。今回は、カテーテル治療で用いた道具についてのやりとりをご紹介します。

自分で手を動かして心臓カテーテル治療を学べるOJT環境

A先生「ふう。。今日の左前下行枝のカテーテル治療は大変だったけど、最後はきれいに仕上がってよかったな。」

B先生「側枝が潰れないようにするために、ワイヤを側枝に入れるのが大変でしたね」

研修医C先生「そういえば、2本目のワイヤを入れるときに、見慣れない道具を使ってましたね。よく出てくる細いカテーテルとも違うみたいでしたけど・・・」

A先生「よく見てたね。あれは、ダブルルーメンカテーテルといって、名前の通りワイヤが通るルーメンが2つあるんだ。すでに入っているワイヤに沿わせて、もう1本ワイヤを入れるためのマイクロカテーテルなんだよ」「1つのルーメンがモノレールルーメン、もう1つがオーバーザワイヤルーメンになっていて、オーバーザワイヤルーメンにあらかじめ追加したいワイヤをのせておくんだ。」

研修医C先生「モノレール? オーバーザワイヤ??? 何ですかそれ?」

A先生「ごめんごめん。モノレールルーメンは先端から10数センチだけワイヤが通るルーメンで、オーバーザワイヤルーメンはカテーテル全体をワイヤが通るようになっているルーメンなんだ。」「モノレールルーメンに、すでに入っているワイヤを通して、オーバーザワイヤルーメンには新しく通したいワイヤを入れておくんだよ。」「そうすると、枝に入れるのにすごく便利なんだ」

研修医C先生「ふうん。。でも、入れ終わったあとに抜くの大変ですよね。」

A先生「なんで?」

研修医C先生「だって、せっかく新しいワイヤが入っても、ダブルルーメンを抜くと一緒に抜けるじゃないですか」

A先生「フフフ、そこでまた新しい道具が登場するのだよ」(と言ってさっき治療で使ったばかりの道具を取り出す)

研修医C先生「え~っ また新しい道具ですか!頭が痛くなってきた・・・覚えきれない・・・」

A先生「まあまあ、そう言わずに!論より証拠、やってみよう!!」「終わった今なら使えるよ」

A先生「まず、ガイドカテーテル(冠動脈入口までの太いカテーテル)にワイヤが1本通っていて、これにダブルルーメンカテであらたに1本ワイヤを通して、2本通りました!」「これからダブルルーメンは抜きたいですが、追加したワイヤは抜けると困ります!」

研修医C先生「ええっと・・どうするんだろ・・ワイヤのお尻を押してあげるとか・・」

A先生「うまいこと考えたね。そういう方法もありますが、この場合は確実にワイヤだけ残したいので、トラッピングバルンを使います」

研修医C先生「トラッピング?? クッキーですか?」

A先生「それはトラピ○ト修道院!!!」(←ホントにあったツッコミです)「トラッピングは、カテーテルの中でバルンを膨らませて、内側からバルンでワイヤだけを抑える方法なんだよ」

A先生「新しいワイヤが入ったら、ダブルルーメンカテをできるだけ外に出しておいて、今度はトラッピングバルンをできるだけ奥に入れる」「バルンはガイドカテから出ないから、ダブルルーメンのないワイヤだけ存在する場所で膨らませると・・・」(と言ってバルンを膨らませる)「バルンでワイヤだけがガイドカテに押しつけられて、ワイヤだけが動かなくなるんです」「トラッピングテクニックといいます」

研修医C先生「ほんとですか・・・?」「そんなうまくいくわけ・・・」(と言いながらワイヤとガイドカテをもって動かす)

研修医C先生「か、固い!」「ワイヤは全然動かないですね。」「あっ もうダブルルーメンだけが抜けた!」

A先生「そうなんですよ。昔の先生はすごいですね(と言ってもカテーテル治療は始まって30年ぐらいですが)」「以前は治療用のバルンを使っていたので、使えるバルンが1本減っていたのですが、今は専用になったんです」

研修医C先生「ダブルルーメンカテもですが、トラッピングテクニックなど、独創的なテクニックですね」

A先生「カテーテルにはまだまだ多くの道具やテクニックがあります。」「これからも、ローテートの間に、カテーテルだけでなく、循環器の魅力を味わっていってください!」

以上、少しマニアックになってしまいましたが、循環器の日常のやりとりをお伝えしました。実物がないとなかなかイメージが湧かないと思いますが、興味のある方には、カテーテル治療が終わった後に、ご納得いただけるまで説明しています。また、これ以外にも、メーカーさんを交えて、模型やシミュレータを用いて実際の手技を体験してもらったりもしています。初期研修医の皆さん、府中病院循環器内科は「治療を通じて人を育てる」ことを重視し、研修医にも十分なOJTの環境を用意しています。将来のキャリアが内科であっても外科であっても循環器診療の経験は臨床医として欠かせないものです。私たちと一緒に「心カテのセカンドができる研修医」を目指して充実の2か月間を過ごしましょう!

指導医の言葉 堂上友紀(循環器内科副部長)

All For Oneは、初期研修医のときは「教わるだけの立場(One)」だったけど、上級レジデントになれば、自然と自分が教える側(ALL)に回ります。循環器内科の一員として、府中病院の一員として、一緒に若手を育て、自分たちも成長し、ONE TEAMで地域医療に貢献していきましょう!