アトピー性皮膚炎治療のゴールとは

アトピー性皮膚炎ではかゆみや皮膚病変のために社会生活、労働、睡眠にいろいろな負荷がかかっています。治療の最終目標は、症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持することです。

アトピー性皮膚炎の治療については10年くらい前に免疫抑制剤であるシクロスポリンの内服療法が重症のアトピー性皮膚炎の治療の選択肢となりましたが、副作用の問題もあり、短期の内服にとどめる必要もあり、実際にはほとんどの患者さんに保湿をベースとしたスキンケアを中心に、炎症を抑えるステロイドやタクロリムスの外用剤とかゆみを抑えるための抗ヒスタミン剤内服による治療が行われてきました。しかし、それらの治療を継続しても一部の患者さんには効果が不十分なケースが存在し、その評価については医師と患者さんの間に意識のギャップが存在することも指摘されています。

※サノフィ公式ホームページから引用

デュピルマブ(デュピクセント)とは

2018年4月、アトピー性皮膚炎治療薬としてはじめての生物学的製剤です。

「デュピクセントの働き」

デュピクセントはIL-4とIL-13という物質の働きを抑えることで、アトピー性皮膚炎の皮膚の内部で起こっているTh2細胞による炎症を抑制します。

「どんな患者さんが使えるのですか?」

今までの治療で効果が不十分な成人アトピー性皮膚炎患者さんに使えますが、皮膚病変の割合など、一定の条件を満たす患者さんに限られます。

アトピー性皮膚炎における炎症機構
日本皮膚科学会ガイドラインから引用
アトピー性皮膚炎の診断治療アルゴリズム
「アトピー性皮膚炎の診療ガイドライン2018」から引用

実際の治療の注意点〜投与法、期間、費用、副作用〜

この新しい薬は2週間ごとに皮下注射します。投与開始初回のみ2本皮下注射し、その後は2週間ごとに1本皮下注射します。2週間ごとの来院が困難な患者さんのために2019年5月からは在宅自己注射も可能になりましたので8週間分、4本を一度に処方することができます。

しかし、薬価が1本でおよそ8万円で、それに保険が適応されます。高額になることが問題ですが、医療費助成制度が適応されるケースがありますので、お住まいの自治体や税務署、健康保険組合などにご相談ください。

注射によって起こりうる重篤な副作用として、過敏症状(ふらつき感、息苦しさ、心拍数の上昇、めまい、吐き気、嘔吐、皮膚のかゆみや赤み、関節痛、発熱など)が現れることがありますのでそのような副作用が見られた場合にはすぐに受診していただく必要があります。また、その他の副作用として、注射部位に発疹や腫れ、かゆみなどの症状が見られたり、結膜炎症状、ヘルペス感染が見られることがあります。

アトピー性皮膚炎の治療の基本は外用療法ですので、基本的には外用療法との併用で治療します。比較的早期からかゆみの改善がみられると言われていますが、顔面の皮疹の改善には時間がかかることが多いです。治療後16週後までに治療反応が得られなければ中止するとされています。症状が良くなってもすぐに中止するのではなく、6か月くらい良い状態が続いてから一旦投与を中止して経過をみても良いとされています。また、アトピー性皮膚炎の患者さんは喘息などの他のアレルギー性疾患を合併されていることもあり、デュピクセント投与によってその症状が変化することがありますので、必ず合併症でかかられている主治医に皮膚科でデュピクセントを使用していることを伝えていただき、合併症の治療を自己中断しないようにしてください。