ストレート研修と比較して

まずは昔話から。我々が医師になった頃も、今とはシステムは違いますが、一様2年間は研修医と呼ばれ、いわゆる「ストレート研修」を受けました。ほとんどの医師は卒業する時点で自分の進路(専攻分野)を決めていたので、いずれかの大学医局に入局し、そのプログラムに従って、大学病院と関連病院をローテーションしながら研修を行いました。その際の良かった点は、早い段階から自分の専門分野に関する研修が行えたので、研修終了時には、レベルの差こそあれ、一様一通りの事は出来るようになっていたので、卒後3年目以降は、ひたすら専門医取得に向け知識や技術の習得に努めることができました。しかし、その一方で、自分の専門分野以外のことに関しては、関連病院を回った時に、先輩医師や他の診療科の医師に指導を仰いだり、診療スタイルを参考に(盗み)しながら、自分で診療技術を磨いていかなければならず、結構大変でした。また、どの病院で勤務するか(他の診療科レベルがどうか)によっても、力の差がでやすかったです。また、自分の専門分野に関しても、現在のような明確な到達目標はなく、どのレベル、どの範囲まで習得すればいいのか、非常に曖昧でした。

現在の初期臨床研修に接してみて

大学で勤務していた頃は、医師であると同時に教員として医学生を指導する立場でしたので、医学生の教育カリキュラムと関わる事は多かったのですが、研修医のプログラムに関しては、大枠を理解している程度でした。今回、改めて臨床研修プログラムを見てみると、非常に多くの項目が設定されており、大変であることを再認識しました。2年間で、いろいろな診療科をローテーションしながら、明確に設定された到達目標をクリアーするために、様々な症状や様態・疾患の経験し、これらに対して30以上のレポートを作成することが要求されています。さらに今年度からは、大幅なプログラム改訂が行われ、より多くのレポート作成や一般内科外来研修が必須項目として求められています。本当に大変です。ご苦労様です。

でも、大変なこのプログラムを、うまく利用出来るかどうかは、研修医の先生次第だと思います。1つには、いろんな診療科で実際の診療に当たりながら、将来の専攻分野を決定できることです。ストレート研修の時代は、実際に診療を始めてみて、学生時に思い描いていた事と違った場合、軌道修正する事は非常に困難でした。また、自分の専攻分野以外の診療に関しても、ある程度の知識・技術を習得できることも大きな魅力です。患者さんは、どの診療科を受診した時でも、「お医者さんに聞いたらわかるだろう」と思っているところがあります。なので、内科にきて、腰痛の話をしたり、外科にきて血圧の話をしたりなど、あるあるです。こんな一見、他科の関係ないような話の中に、実は診断につながるヒントがあることもあります。また、「それは自分の専門外だから」と言って話を断ち切るのでなく、自分が学んできた範囲で、「専門じゃないけど、こんな病気の可能性もあるから、一度〇〇科へいってみたらどうですか」と話してみるだけで、患者さんとの距離は、ぐっと縮まります。将来、外来診察をするようになり、色々と聞かれるようになったら、「めんどくさい」と思わずに、「自分も信頼されるようになったんだ」と喜んでください(でも決して間違った知識ではダメですよ!)。自身の専門分野以外の知識を得、技術を体験できるのは、今しかありません。そう考えることができれば、このプログラムを最大限活用し、研修を終えることができると思います。

府中病院の初期臨床研修はどうか

今回、プログラム責任者を努めるにあたり、改めて当院の臨床研修プログラムを見てみると、手前味噌ですが、非常に良く考えられていると思いました。歴代のプログラム責任者を中心に、多職種や研修医自身も加わって作り上げた成果だと思います。選択科目の自由度の高さ、シミュレーターを用いたスキルアップ講習、指導医と共に行う救急対応や当直、学会発表を想定した院内セミナーでの発表など、2年間で基本的なスキルを習得しながら、自身の進路を決定出来るようになっています。また、本年度のプログラム改訂により必修化された内科初診外来も、当院では2006年から導入しており、指導体制も十分整備されています。

昨年、第三者評価として、卒後臨床研修機能評価機構(JCEP)による当院の研修プログラムに対する評価を受ける機会がありました。資料を準備するなかで、評価項目の多さ、細かさに驚きましたが、臨床研修専属の事務員を中心に、病院全体として対応した結果、無事、認定を得ることができました。

さらに、認定された病院のなかでも、非常に優れた研修病院に対して与えられる「Excellent賞」を関西圏で初めていただくことができました。

最後になりますが、現在の臨床研修プログラムを将来の自分の糧にするか、専門医取得の回り道と思って2年間を過ごすかは、研修医次第です。府中病院のプログラムは、研修医の皆さんが初期研修を前者として成長できるよう最大限サポート出来るものと思っています。皆さんからの病院見学、初期研修の応募をお待ちしています。

花谷 彰久
花谷 彰久
心不全センター/センター長
医師研修センター/初期研修室長