消化器内科というと、どのような仕事を思い浮かべるでしょうか?取り扱う疾患は消化性潰瘍、胃がん、大腸がん、膵疾患、など多数あります。胃カメラ、大腸カメラなどの内視鏡を用いた検査、治療を行っており、いわゆる「専門医」として仕事をしています。

しかし、地域の中核病院である府中病院では検査・治療といった明確な目的を有した患者さんの診察をするのみではありません。いろいろな基礎疾患、生活環境を有した患者さんが発熱、食欲不振、腹痛、下痢といった症状で受診されます。原因は消化器疾患のみならず、感染症や内分泌疾患、循環器疾患と診断されることも多々あります。また、救急疾患も多数扱っているため、的確に急性腹症の鑑別を行う必要があります。そのため消化器疾患のみの診断・治療では不十分であり、私たちはより広い目線で患者さんと向き合うことを心がけています。病歴聴取、身体所見を重視し、その上で各種検査を組み合わせながら鑑別診断を検討していきます。治療も画一的なものではなく、患者さん・ご家族の背景を考慮したうえで、患者さんにとってbetterな方針を決定しています。

医師として最初の2年間で礎を築いてもらうために

府中病院では、多くの初期研修医が内科研修の一つとして消化器内科のローテーションを選んでいます。毎年10人前後の初期研修医がいるので、その中には消化器疾患に興味がある研修医から、将来的には消化器を扱わない科を考えている研修医まで多種多様です。ただ、全員に共通することは「医師」としての第一歩を踏み出したばかりであり、これから多くの病める人たちに寄り添い、救う使命があると言うことです。医師としての心得がきちんとできていれば、内科、外科などの垣根を超えて将来の大きな礎になります。そして、私たち上級医には研修医を育てていくという責務があります。
 
消化器内科の研修中は、上級医とともに担当患者の診療に当たります。研修医のみで解決できることは少ないですが、時間をかけ話を聞き、診察を行い、問題点や不安を抽出するという、医療の原点を経験します。消化器内科はチーム全体として気軽に報告・連絡・相談をできる環境を提供しており、日々の診療で疑問に感じたこと、わからないことを解決していく風土が醸成されています。場合よっては上級医にも判断が難しい症例もありますので、一緒に問題解決をして共に学んでいきます。やり取りを繰り返す中で、コミュニケーションの大切さを自然に学んで行きます。
 
週に1回行う症例カンファレンスでは、担当症例のプレゼンテーションを行います。上級医から質問される内容は消化器疾患に関する内容のみならず、病歴の詳細や社会歴、血液検査の解釈、画像の読影、など一般内科として大切な事が多いです。病棟では看護師、薬剤師など多職種が協同したカンファレンスが開催されます。疾患の病状や問題点、治療方針、退院へ向けて社会サービスの必要性を述べ、情報共有をします。自宅に退院できるのか?退院調整が必要なのか?担当医として医学的知識が問われますが、患者背景までどれほど把握しているかがポイントとなります。
 
国家試験勉強ではプレゼンテーションを学ぶ機会が少ないので、多くの研修医は不慣れな状態で開始します。ローテーションの当初は、小さな声で要領を得ない事も多いですが、経験を重ねるうちに徐々に上手になっていきます。研修の後半には自信を持ってプレゼンテーションができるようになっており、その成長を垣間見ることがでます。もちろん消化器内科の魅力の一つである、内視鏡・エコーといった最先端機器にも直に触れることができます。まずはシミュレーターを用いて内視鏡を操作してもらうのですが、上級医が平然とこなしている検査が実際にはどれほど難しいか?専門的な技術を実感し、理解を深めてもらいます。
 
初期研修の2年間では疾患に対しての理解も深まっていますが、医師として成長していることが実感できるはずです。また私たち指導医として一番嬉しいのは、府中病院を卒業した後に一人の立派な医師となっている姿を見る時です。

研修医からの「府中病院で研修をしてよかった」の言葉を励みに、時には厳しく時には優しく、「All For One!」の指導を続けます。