いま、近視の人が増えてきているのでしょうか?
こんにちは、府中アイセンター通信編集担当の谷川です。
最近、衝撃的な研究報告を目にしました。オーストラリアの研究機関によると、『近視人口は世界的に増加している』との事です。また、『近視発症年齢が低いほど進行しやすい』とも報告しています。スマートフォンやゲーム機の爆発的な普及や長時間使用が一因とされています。
さて、今回は視力矯正を専門にしている当センターの立花先生に最近の視力矯正治療について伺がってみたいと思います。
谷川 :
立花先生、近視人口が世界的に増加していると聞いたのですが、日本はどうでしょうか?
立花先生:
実は、日本を含むアジア人の近視の割合は欧米人に比べ非常に高いと報告されています。日本の近視人口も毎年増加傾向で、特に子供の裸眼視力は年々低下傾向です。それから、近視は発症年齢が低いほど進行しやすいといわれており、子供の近視矯正や近視進行の抑制については、なるべく早い段階から対策を行うことが重要です。
寝ている間にできる近視治療(オルソケラトロジー)があるって本当ですか?
谷川 :
話は変わりますが、最近、近眼治療に寝ている間にコンタクトレンズを装着する治療法があると聞いたのですが、どういう治療法でしょうか?
立花先生:
オルソケラトロジーの事ですね。酸素を良く通す構造のハードコンタクトレンズを夜寝る時に装着します。翌朝、起きてレンズを外すと、視力が一時的に回復し、日中は裸眼で過ごせるようになる治療法です。また、睡眠時の装着を繰り返すことで近視等を矯正しますが、使用を中止すれば元に戻ります。
谷川 :
寝ている間にコンタクトレンズを装着するということに違和感を感じます。大丈夫ですか?
立花先生:
確かに、通常であれば、夜間、ハードコンタクトレンズは外さなくてはいけません。オルソケラトロジーレンズは酸素透過性が非常に高い素材で作られた特殊なレンズですので、問題ありません。ただし、通常のハードコンタクトレンズと同様に、レンズの汚れや歪み、損傷によって眼障害を引き起こす可能性があります。毎日レンズケアを行い、レンズを清潔に保つことや定期的な眼科医の診察が必要です。
谷川 :
どれぐらいの期間で視力が改善しますか?
立花先生:
一般的に、6時間以上の夜間レンズ装着が必要とされています。ほとんどの人は1~2週間程度で視力の改善を実感できると報告されています。しかし、目の度数や状態によって個人差があります。
谷川 :
オルソケラトロジーとレーシック手術との違いについて教えていただけませんか?
立花先生:
一番大きな違いは、オルソケラトロジーはコンタクトレンズにより角膜の形状を変化させて視力矯正するのに対し、レーシックは角膜を削って視力矯正する点ですね。オルソケラトロジーは角膜を削らないので夜間の装着をやめれば元に戻るというのが大きな特徴です。そのため、屈折矯正手術に抵抗がある方や手術適応年齢に達していない未成年者が対象といえます。
【レンズ装用前】
【レンズ装用】
【レンズを外す】
寝ている間にできる近視治療(オルソケラトロジー)の
メリットとデメリットは?
谷川:
オルソケラトロジーのメリットとデメリットを教えていただけませんか?
立花先生:
まず、メリットです。繰り返しになりますが、就寝前にコンタクトレンズをつけ、起床後に外すので、日中は裸眼で生活ができるようになります。ですので、水泳や激しい動きを伴うスポーツを行う方に向いていますね。また、眼鏡・コンタクトレンズの装用が不便と感じる方や、コンタクトレンズの乾燥に困っている方にも適しています。また、装着をやめると角膜を元の状態に戻すことができる事や未成年者・高齢者でも治療可能な事が挙げられます。逆に短所としては、就寝前にコンタクトレンズを装着する必要がある事やコンタクトレンズのケアが毎日必要になる事ですね。
オルソケラトロジーは特に「子どもの近視」に効果が高いのですか?
谷川:
コンタクトレンズケアをきちんとできれば未成年者でも治療可能なんですね。子供の裸眼視力が低下しているという報告がありますし、未成年者が対象になるのは良いですね。
立花先生:
オルソケラトロジーの治療効果がとくに高いのは、軽度の近視と中度の近視、そして子供の近視です。子供の角膜は柔軟性があるため形状が変わりやすく、効果が出やすいです。さらに早く安定するという特徴があります。未成年者は角膜が成長段階のため、通常レーシックを受けることはできませんが、オルソケラトロジーならばコンタクトレンズの扱いを覚えることで視力の矯正が可能になるというメリットがあります。』
※2017年12月に「オルソケラトロジーガイドライン第2版」が施行されたことにより、未成年者に対しても慎重処方が可能となりました。
立花先生:
さらに、近年、オルソケラトロジーは子供の近視進行を防ぐ有効な治療法として、各国の大学、研究機関等で積極的に研究・報告が行われています。様々な文献において30%前後の近視抑制効果が報告されています。眼鏡やコンタクトレンズ、レーシック手術など他の視力矯正法は、視力矯正効果はありますが、近視進行の抑制効果はありません。近視のお子様をお持ちの親御様は、お早めにお近くの眼科・クリニックにぜひご相談いただきたいと思います。
谷川:
立花先生、ありがとうございました。白内障や緑内障、糖尿病性網膜症だけでなく、近視に対してもオルソケラトロジーという新たな眼科治療の選択肢が出てきたことがよくわかりました。府中アイセンター職員一同、これからも地域の皆様の“目の番人”として幅広い眼科疾患の診断、治療に貢献していければと思います。
当院におけるオルソケラトロジーのご紹介(自由診療)
一般的には、軽度から中等度(屈折度ー4Dまで)の近視の方が適応とされています。適応については当院で検査を実施しておりますのでお気軽にお越しください。
どんな方が適応か:
・メガネやコンタクトレンズの煩わしさから解放されたい方
・レーシックなどの屈折矯正手術に抵抗のある方
・コンタクトレンズの乾燥に困っている方
治療内容:
特殊な形をしたハードコンタクトレンズを装着してもらいます。レンズをつけたまま就寝し、寝ている間に角膜の形を平坦化させることによって近視を矯正する治療法です。
費用:
適応検査 11,000円
片眼 110,000円
両眼 165,000円
2年目以降 定期検査 5,500円
※レンズの寿命は約2年です。
想定しうる治療の合併症、副作用:
レンズの取り扱いが不衛生であったり、医師からの指示に反する不適切な装着を続けた場合には、通常のハードコンタクトレンズと同様に角膜炎や角膜上皮障害などを生じる事があります。
しかし、各種の検査で安全性を確認しながら治療を進めていくので、リスクはほとんどありません。