当院消化器外科では胃がん、大腸がんに対するロボット支援下手術、腹腔鏡下手術をはじめとする悪性疾患に対する治療はもちろん、鼠経(そけい)ヘルニアや胆石症などの良性疾患に対しても幅広く日々、診療・治療を行っております。その中でも今回は鼠経ヘルニアとはどういう疾患か、その治療法について説明いたします。

鼠経ヘルニアってどんな病気?

まずヘルニアとは、臓器が正常にあるべき位置から隔壁の弱い部位を通過し、非生理的場所へ脱出することのことを指します。整形外科領域の腰椎椎間板ヘルニアなどが有名です。鼠経ヘルニアとは、本来ならお腹の中にあるはずの腹膜や腸の一部が、鼠経部(両足の付け根の部分)の筋膜の間から皮膚の下に出てくる状態のことを言います。飛び出してくるものが小腸や大腸であることも多いのでよく“脱腸”と呼ばれます。日本国内の患者数は年間30万人程度と言われており、そのうち16万人程度の患者さんが手術を受けられています。
鼠経ヘルニアは、男性の方が女性の5倍なりやすく、慢性便秘、排尿障害、肥満、妊娠、重いものを持つ肉体労働、慢性的に咳をする疾患(肺気腫など)など常時腹圧がかかっている人がなりやすいと言われています。

鼠径ヘルニアの症状

鼠径ヘルニアの主な症状は股の付け根のふくらみや不快感、痛みです。
当院に来られる患者さんからは、
「2、3カ月前から股の付け根がポコっと膨らんできました」
「下っ腹の膨らんでるところが時々痛むんです」
「立ち仕事をしていたり、きばったりすると股の付け根が腫れてきます」
といった声をよく耳にします。
鼠径部に不快感や痛みを感じる、立ったときやお腹に力を入れたとき、鼠経部にやわらかい腫れを感じるなどがあります。腫れは通常、指で押し込んだり、仰向けになれば引っ込むことが多いです。まれに、腫れがいつもより大きく固くなり、押し込んでも戻らなくなり、痛みもいつもより強くなる場合があり、これを陥頓(かんとん)と言います。この状態が続けば、脱出した腸管や腹腔内脂肪が壊死することもあり、緊急手術が必要になることもあります。

鼠径ヘルニアの検査、診断

診察時に、鼠経部の膨隆(ぼうりゅう)を確認することと、元に戻す操作をするだけで十分です。腫れがない場合は咳をしてもらって腹圧をかけることが必要になる事もあります。わかりにくい場合、超音波検査やCT検査をするとはっきりすることもあります。

鼠径ヘルニアの治療

ヘルニアバンドなどで鼠径部の腫れを物理的に腹壁外から抑え込む方法もありますが、薬物療法はなく、根治のためには手術以外に治療法はありません。手術法としては、従来から行われている鼠径部切開法のほかに、近年増加傾向にある腹腔鏡下手術があります。腹腔外からアプローチするか、腹腔内からアプローチするかの違いはありますが、いずれも脱出した腹腔内臓器を腹腔内に戻したうえで、人工の繊維で編んだ網(メッシュ)で弱くなった鼠経部を覆って補強し、ヘルニアを治します。一般的に再発率は1%程度と言われています。

切って治すは外科の本懐〜開腹手術も腹腔鏡手術も安心してお任せください〜

当院では年間約120件の鼠経ヘルニア手術を行っていますが、そのほとんどに対して腹腔鏡手術を行っています。腹腔鏡手術のメリットとして、腹腔内からヘルニアの詳細な発生部位を目視で確認でき、ヘルニアの発生部位をトータルでカバーできること(両側発生なら同時手術が可能)、創部が小さいため術後疼痛を軽減でき、容姿的に美しく、術後の運動制限がないため、患者さんの早期復帰が可能であることが挙げられます。当院では2020年2月までの間、鼠経ヘルニアに対し500件を越える腹腔鏡手術を行っており、再発率も0.18%であり、地域の皆さまに安心して受けていただける手術と考えております。また、全身麻酔が困難な併存疾患をお持ちの患者さん、腹部手術既往があり、腹腔鏡手術が困難な患者さんにつきましては、従来の鼠径部切開法も行っております。

当科では、今回ご紹介した鼠経ヘルニアはもちろん、消化器悪性腫瘍なども含め、多くの疾患に対して幅広く、日々診療を行っています。一人一人の患者さんに対し、ご紹介いただいた紹介元の先生方の力もお借りして、今後とも安心安全な医療をお届けできるよう、研鑽・邁進して参ります。

地域の皆さま、いつもお世話になっている紹介元の先生方、今後も府中病院 外科センターをどうぞよろしくお願いいたします。