こんにちは。府中病院 診療技術部の超音波検査室です。
当院の超音波検査室は、平成25年10月に臨床検査室から独立した部署です。
 
当院の超音波検査室は、患者サービスの向上、人財育成に力を入れているのが自慢です。
 
例えば、
超音波検査を行うためには、朝、絶食していただく必要があります。
そのため、検査の予約時間を、早朝8時から取れるようにして、なるべく早く検査を受けていただけるように工夫をしています。
 
また予約以外でも腹痛などの患者さんを積極的に飛び入りで受け入れられる体制づくりに努めています。
 
さらに、人財育成では、新人さんが安心して技術習得ができるよう、当室独自の、「新人教育プログラム」を準備しており、その過程に沿って教育しています。
 
この記事では、
 
①当院の「超音波検査士」育成法
②「学校では教えてくれない」腹部超音波検査の知識、ノウハウ
③「超音波検査士」になるための具体的な方法
について、詳しくお話ししたいと思います。
ぜひ最後までお付き合いください。

①当院の「超音波検査士」育成法~どんどん育っています!活躍しています!~

まず、超音波検査とはどのようなものでしょう?
みなさんは、「超音波」って聞いたことありますか?
 
「超音波」とは、人の耳には聞こえない高い音のことをいいます。
イルカやコウモリ、魚群探知機が知られています。
私たちは、超音波装置というものを用いて検査しています。
 
超音波装置の原理は、プローブという機材から超音波を体内に向けて送信し、反射して返ってきた超音波を解析し二次元画像として表示します。
超音波検査は、肌に密着させ見やすくするためにゼリーをぬって検査します。
 
このように、直接見えない、体の「臓器」の状態を映し出せるのが「超音波検査」の特徴です。
 
ただし、機械でしらべるといっても、操作する人間の技量によって映し出せる画像が変わってきます。
 
自慢じゃないですが、このあたりの「ノウハウ」が、超音波検査士の職人技です!

イルカは超音波で仲間と会話をしたりエサとなる小魚を超音波で気絶させたりします。

コウモリは超音波の反射波で地形やエサとなる虫の存在を知ることができます。

海中に発した超音波の反射波を画像化して海底の地形や魚の存在を知ることができます。

当検査室には、超音波検査士2名(臨床検査技師1名、診療放射線技師1名)が在籍しています。他施設(府中クリニック、和泉診療所)の応援をしながら超音波検査を一日平均、30~35件を検査しています。下記のグラフは、腹部超音波検査の実施件数です。
このように、年々超音波検査の必要性は増加してきています。それにともない、超音波検査士の必要性もどんどん高まってきているのです。

「過去5年間の腹部超音波検査件数」

年度H25年度H26年度H27年度H28年度H29年度H30年度
件数6,5377,1017,9528,8078,8298,524
そのような背景があり、
当院では、超音波検査の「ノウハウ」を技術伝承できるように努めています。
 
2019年11月現在、当法人で経験をつみ、現在も各地で活躍しておられる優秀な皆さんをご紹介します。
  • 府中病院 : 女性医師2名(大阪市立大学や八尾徳洲会病院で活躍中)
  • 府中クリニック : 女性技師2名(藤井病院と上西乳腺クリニックで活躍中)、女性技師3名(府中クリニックで活躍中)
  • ベルクリニック : 女性技師7名(5名はベルクリニックで活躍中、2名退職)
  • 阪南市民病院 : 女性技師(超音波検査士を目指し活躍中)、男性技師(泉南藤井病院で活躍中)
当院の超音波検査室では、独自の新人教育プログラムを作成し、活用しています。
 
例えば、機器の電源の入れ方から機械の操作、各臓器の描出法、病変の有無、報告書の作成など、およそ2年間で超音波検査の技術を習得できるようなプログラムとなっています。また、公用での院外講習会や室内勉強会、症例検討会を実施してスキルアップに努めています。

②超音波検査のABC 「学校では教えてくれない」腹部超音波検査の知識、ノウハウ

【初級編】~解剖をしっかり理解しよう!~

つぎに、どのようにして超音波検査士の技術が磨かれていくのでしょうか?
重要なポイントを初級~上級まで、順をおって説明させていただきます。
 
まず、腹部超音波検査をするには解剖の知識が必要です。
それがないと、得られた画像に何が描出しているのか分からないからです。
 
まずは、各臓器の位置関係や機能、走行について理解していきましょう。
下記は、超音波検査を行う主な臓器です。
(画像参照:腹部超音波テキスト ≪上・下腹部≫ 辻本文雄 編著 松原馨・井田正博 著)

各臓器の位置関係

肝臓(クイノーの分類)

胆管系

脾臓・脾臓

腎臓

膀胱・子宮・卵巣・前立腺

超音波検査は、レントゲンやCT、MRIなどと何が違うのでしょう。
 
超音波検査の利点には下記のようなものがあります。
① 非侵襲性な検査で放射線被爆の心配がない。
② 装置が小型で移動可能である。
③ リアルタイムに画像が得られる。
④ 任意の方向を観察できる。
 
逆に、超音波検査の欠点は
① 検査者の技量に左右される。
② 消化管ガスや体型など被検者側の条件に左右される。
 
ですから、患者さんの状態にあわせて臨機応変に検査をするためには、経験をつむことが大切なのです。
 
検査をするには、患者さんの協力が欠かせません。
 
① 絶飲食で検査する。(食事により胆嚢が収縮するため検索困難になる)
② 膀胱にできるだけ尿を溜める。(排尿で膀胱が収縮するため検索できない)
 
といった準備が必要です。

食後2時間の胆嚢   排尿後10分の膀胱

超音波検査は、下記のような様々な臓器を検査することができます。肝臓(門脈、静脈)・胆嚢(胆管)・膵臓(膵管)・脾臓(副脾)・腎臓(副腎、尿管)・前立腺・膀胱・子宮・卵巣・大動脈・消化管(胃、十二指腸、小腸、大腸)・体表(頚部、甲状腺、上肢、下肢、陰嚢など)に病変がないかを検索します。
ただし、心臓・乳腺・血管エコーは生理検査室で検査しています。

【中級編】きれいな超音波画像を撮ろう(描出のテクニック)

次に、きれいな画像を得るための、テクニックを紹介します。
 
きれいな超音波画像を得るには主に3つのテクニックを使います。
① 呼吸法
② 体位変換
③ プローブの角度や圧迫
 
1つ目は呼吸法です。
吸気で横隔膜が下がり上部の臓器も下がるため、見やすくなるので息を止めている間にきれいな画像を撮ります。逆に呼気によって肺のガスが被らなくなり見やすい場合もあります。このように、呼吸のタイミングを見極めることが大切です。
 
2つ目は体位交換です。
左側臥位では肝臓や胆嚢が左側に移動し、胃や十二指腸も内部のガスが移動して見やすくなります。
右側臥位では膵臓が右側に移動するので膵尾部の検索に有効です。
 
また、膵臓が描出困難な場合は座位にしたり、ミルクティーを空気が入らないようにストローで飲んでもらい、胃を膨らませて検査する場合もあります。
 
胆石またはポリープの鑑別にも体位変換を用います。例えば、胆石は姿勢によって移動しますがポリープは移動しないので見分けることが可能になります。
 
3つ目は、プローブの角度や圧迫の仕方です。
ガスや腹壁のアーチファクトを避けるためにプローブの角度を斜めにしたり、しばらく圧迫を続けるとガスが移動するので見えやすくなります。
 
これらのテクニックを駆使して検査を施行しています。
 
下記の画像は、ルーチンの画像です。(2画面で7枚撮ります)
どの臓器が映し出されているかわかりますか?
 
左上から順に、肝左葉と膵体部、脾臓と左腎、門脈臍部と肝静脈、胆嚢と総胆管、門脈前枝と右腎、膀胱と男性は前立腺、膀胱と女性は子宮、大動脈長軸と短軸です。
臓器の異常を発見するためには、「正常な画像」を覚えておく必要があります。
普段のルーチン画像では見られない異常な場所がないかどうかを臓器が消える所まで(隅から隅まで)くまなく検索しましょう。

【上級編】慢性疾患と急性腹症(痛みの原因)を検索する。

いよいよ上級編です。実際の事例をもとに、異常な部位がないか、一緒に確認してみましょう。
 
まずは、症状によって観察する臓器を決めていきます。
 
①慢性疾患の場合は、悪性腫瘍がないかを検索します。例えば、慢性肝炎や肝硬変では肝細胞がんの有無、糖尿病では膵臓がんの有無を検索します。
②吐血の場合は、胃がん、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの有無を検索します。
③新鮮下血の場合は、大腸がん、虚血性腸炎、大腸憩室出血などの有無を検索します。
④急性腹症では、肝膿瘍、胆嚢炎、胆管炎、膵臓炎、尿管結石、胃潰瘍、急性胃粘膜病変、アニサキス症、十二指腸潰瘍、小腸炎、細菌性腸炎、大腸憩室炎、急性虫垂炎、消化管穿孔、腸閉塞、卵巣出血、捻転、大動脈解離など、痛みの原因がないかを検索します。

超音波検査で判る疾患と部位(心臓を除く)

肝臓急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、脂肪肝、肝嚢胞、うっ血肝、アルコール性肝炎、原発性肝がん、転移性肝がん、肝血管腫、肝膿瘍
胆道系急性胆嚢炎、慢性胆嚢炎、胆嚢結石、胆嚢腺筋腫症、胆嚢がん、胆嚢隆起性病変(ポリープ、がん)、総胆管結石、胆管がん
膵臓急性膵炎、慢性膵炎、嚢胞性腫瘤(IPMNなど)、膵仮性嚢胞、膵がん、膵石
脾臓脾嚢胞、脾外傷、脾梗塞、脾腫、脾血管腫、リンパ管腫
泌尿器系急性腎不全、慢性腎不全、腎嚢胞、腎結石、腎細胞がん、腎盂がん、腎血管筋脂肪腫、水腎症、尿管結石、膀胱がん、膀胱結石、神経因性膀胱、前立腺肥大症、前立腺がん、前立腺結石、前立腺嚢胞
婦人科系子宮筋腫、子宮がん、子宮外妊娠、卵巣出血、卵巣がん、卵巣嚢腫
消化管胃がん、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、急性胃粘膜病変、アニサキス胃炎、大腸がん、虫垂炎、憩室炎、細菌性腸炎、ウイルス性腸炎、腸閉塞
その他腹部大動脈瘤、解離性大動脈、血栓、胸水、腹水、膿瘍、リンパ節
体表乳腺、甲状腺、耳下腺、顎下腺、頚部、上肢、下肢、皮下、陰嚢

下記に症例の一部を提示します。

① 胆嚢がん:胆嚢底部に不整な壁肥厚を認めた。
② 膵臓がん:膵頭部に腫瘍を認め、胆管や膵管の拡張を認めた。
③ 胃がん:前庭部に壁肥厚を認め、肝内に転移も認めた。
④ アニサキス胃炎:胃角部付近に浮腫を認め、虫体と思われる2重ラインを認めた。
⑤ 十二指腸潰瘍穿孔:十二指腸潰瘍から外へ続くガスエコーを認め、穿孔を疑った。(手術で穿孔していた)
⑥ 膀胱がん:膀胱内に隆起性病変を2ヶ所認めた。
⑦ 急性虫垂炎:虫垂の腫大と周囲炎症を認めた。
⑧ 大腸がん:上行結腸に壁肥厚を認め、軽度の腸閉塞を認めた。
おわかりいただけましたか?
このように、わずかな異常や変化を見落とさずに、適切に発見することが、治療のためにとても大切なのです。
当院の超音波検査室では、平成30年度は、初回精査の腹部超音波検査で200件の悪性腫瘍を指摘しました。

平成30年4月~平成31年3月までの悪性疾患検出症例

腹部超音波で指摘内視鏡後、指摘できたCT、MRI後、指摘できた件数累計
胃がん17534月1515
小腸がん1
大腸がん34245月2136
肝細胞がん138
転移性肝がん18196月2460
胆嚢がん71
胆管がん627月2080
膵臓がん181
乳頭部がん218月1797
腎臓がん45
脾臓病変9月12109
子宮がん31
卵巣がん1110月16125
前立腺がん4
膀胱がん10211月14139
副腎腫瘍31
副腎転移312月17156
胃GIST、SMT
リンパ節転移28261月15171
悪性リンパ腫53
腹膜播種332月14185
胸膜播種
腹壁転移113月15200
癌性腹膜炎3
甲状腺がん-
その他、がん4
周囲浸潤111
門脈浸潤1
虫垂腫瘍1
合計2001153200

③「超音波検査士」になるための具体的な方法~プロフェッショナルへの道~

最後に、超音波検査士に興味をお持ちいただいている皆さんへ、具体的な資格取得方法について紹介します。
 
受験条件は、下記の3つの条件をすべて満たしていることです。
① 日本国の看護師、准看護師、臨床検査技師、診療放射線技師のいずれの免許を有すること。
② 3年以上継続して日本超音波医学会の正会員もしくは準会員または日本超音波検査学会の正会員であること。
③ 本会認定超音波専門医・指導検査士の推薦が得られること。が条件です。
 
対象領域は
体表臓器・循環器・消化器・泌尿器・産婦人科・健診・血管で7つの領域があります。
年に1領域を受験できます。(すべて取得するには、7年必要です!)
 
受験様式は
①書類審査(受験する領域の超音波検査実績症例を20症例提出)
②マークシート方式による筆記試験(臨床領域及び医用超音波の基礎)
各35問出題、各解答時間70分
 
によって合否が決定されます。
1領域を合格すると、次の年だけ医用超音波の基礎が免除されるので、みんな、続けて受験しています。
 
余談ですが、当院では資格取得によるスキルアップが見込まれ、合格すると奨励金が貰えます。
 
いかがだったでしょうか?
超音波検査の魅力を少しでも感じていただければ幸いです。
 
よりよい治療と、地域のみなさまの健康的な生活のために、優秀な超音波検査士がますます増えていくことを期待しています。
 
みなさん、我々と一緒に超音波検査をしてみませんか?