大腸がんについて

大腸は、1.5~2mの長さの腸管で回腸(小腸)に連続して盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸、肛門管へと続いています。大腸がんはその大腸の粘膜から発生する悪性腫瘍です。大腸がんの発症初期は自覚症状が少ないことから早期発見のためには定期的な健診が必要です。大腸がん検診では便潜血検査を行いますが、精密検査では注腸X線検査、大腸内視鏡検査を行います。

「がんが大腸の壁にどこまで入り込んでいるか」を分類したもの。正確には手術後の病理組織検査にて判明します。

大腸がんのステージは、

  1. 深達度
  2. リンパ節転移
  3. 遠隔転移と腹膜転移

で分類されます。

  • ステージ 0:がんが粘膜の中にとどまっている。
  • ステージⅠ:がんが大腸の壁にとどまっている。
  • ステージⅡ:がんが大腸の壁の外まで浸潤している。
  • ステージⅢ:リンパ節転移がある。
  • ステージⅣ:血行性転移(肝転移、肺転移)または腹膜播種がある。

当院における大腸がんの治療は、ステージ0、Ⅰは原則的に消化器内科医が内視鏡治療(EMR:粘膜切除術、ESD:粘膜剥離術)を行っています。ステージⅠ(SM深部浸潤)、Ⅱ、Ⅲ(Ⅲa・Ⅲb)に対しては外科的治療(手術療法)を行います。ステージⅣに対しては、化学療法を行います。

がんの状態の観察や術前ステージの判定、再発・転移(がん細胞が、がんが発生した場所[原発巣]から、それ以外の場所に飛び火して大きくなること)の有無の確認には腹部超音波検査、CT検査、MRI検査、PET検査などを行います。

大腸がん(結腸がん・直腸がん)の手術療法

治療の原則はがんを残すことなく、きれいに取り除くことです。がんを根絶する手術を根治手術と呼びます。がんが筋層からさらに深く入り込んでいるとあらかじめ診断されると、手術治療が行われます。

  • がんをもった腸の切除だけでなく、リンパ節郭清も行います。
  • 手術前にリンパ節に転移があるか無いかを調べる検査の精度が十分でないため、がんの深さを指標としています。
  • 切り取ったリンパ節にがんの転移が証明されると、再発予防のため化学療法が奨められます。
  • 広い範囲のリンパ節を切り取ったために手術後に障害が生じることはほとんどありません。
  • 腸管を切除した後、残った腸管をつなぎます(吻合)。
  • 直腸がんが肛門近くにあり、吻合ができない場合、人工肛門になることがあります。

炭酸ガスで腹部を膨らませて、3D内視鏡(腹腔鏡)でお腹の中を観察しながら、数箇所の小さな創(ポート)から器具(鉗子)を入れて手術を行います。より精度の高い、出血しない手術を行っています。保険適応の手術です。

[通常の開腹手術とは異なる点]

  • 腹腔鏡による限られた視野で長い鉗子を操作して行う手術のため、術者としてトレーニングが必要です。 当院は、日本内視鏡外科学会技術認定医が担当します。
  • 創が小さいため、手術後の痛みが少なく、回復が早く、早期に退院できます。
  • 手術時間がかかります。約2-3時間。
  • 医療費が高くなります。

  1. がんから10 cmはなれた部位で腸管を切ります。
  2. 腸管を切除した後、腸管をつなぎます(吻合)。
  3. 手術名は、切除された腸管により決まります。[結腸右半切除、横行結腸切除、結腸左半切除、S状結腸切除]

当院では術前の造影CT検査で血管構築画像を作成し、個人差のある血管走行や分枝をシミュレーションし安全な手術を行っています。

● ダヴィンチ手術 詳細はこちら

● 前方切除術・超低位前方切除・ISR(内肛門括約筋切除手術)

  1. 肛門側はがんから 2~3 cm 離して直腸を切ります。
  2. 直腸を切除後、腸管をつなぎます。
  3. 通常、器械を用いて吻合します。ISRの場合、肛門から縫合します。
  4. 縫合不全(後述)の危険性がある場合は、念のため一時的に人工肛門を造設する場合があります。人工肛門を造設した場合は、肛門機能や再発がないことを確認した上で約3-6ヵ月後に人工肛門閉鎖手術をします。

がんが肛門近くにある場合、人工肛門になることがあります。人工肛門の管理は非常に進歩しています。看護師(WOCナース)による人工肛門の管理・教育や、患者会(オストメイト)など、ケアシステムのさまざまな取り組みが行われています。膀胱の機能や性機能を司っている神経が直腸の近くにあるため、それらの神経を残す手術が行われます(自律神経温存術)。がんを根治させるために、やむなくこれらの神経が切除された場合、尿が出にくくなったり、性機能の障害が起こったりすることがあります。がんが、膀胱や子宮、膣、前立腺に浸潤が疑わしい場合は、術前化学療法もしくは放射線化学療法を行い、がんを縮小させてから手術する場合もあります。

大腸がんの手術実績推移

手術治療の合併症

(当院では、麻酔科専門医師による麻酔管理を行います。)

  1. 全身麻酔をかけた際、さらに続いて手術をした際に心・肺・肝・腎機能などの全身状態に大きな影響が出る場合があります。
  2. 危険な不整脈などの重篤な変化が起これば手術を中止せざるを得ない場合もあります。また、潜在する動脈硬化などによる血栓が脳や心臓や肺などに飛んで術中・術後に脳梗塞、心筋梗塞、肺梗塞などの重篤な状態に陥ることも稀にあります。

このような合併症が起こった場合は、脳神経外科、循環器内科、呼吸器内科医師との連携で対応します。術後に心・肺・肝・腎機能などの全身状態に大きな悪影響を受けて命にかかわるような状態に陥ることにも注意する必要性が高まっています。

大量出血は少ないですが、貧血の度合いや出血量を加味して必要ならば輸血を行います。止血を完全にして手術を終了しますが、血管の脆い人や血の止まりが悪い人では術後に出血することがあります。その時にはまれですが、輸血する場合に再手術をする場合もあります。吻合部(腸と腸を縫い合わせたところ)からの出血があれば、大腸内視鏡による内視鏡的止血術や再手術による止血が必要になることがあります。

腸管がうまくつながらなかった場合、吻合部から便が漏れ出て炎症が起こり、熱が出ます。長期の絶食や体外からのドレナージ(CTやエコーなどで見ながらお腹の中に漏れた腸液を外へ出すチューブを入れる処置)などが必要になることがあります。さらに、その程度がひどい場合には再手術をして腹腔内洗浄(お腹の中を洗うこと)し、一時的に人工肛門(腸の縫合部より口側の腸をお腹の外へ出すこと)を作ります。縫合不全は、結腸がんでは約 3%(当院2%)に、直腸がんでは10%(当院5.4%)に発症してしまう合併症です。
手術から回復し、腸管が動くとおならとなってガスが出ます。いったん動き始めた腸が、食事を開始してしばらくすると動きが悪くなり、お腹が張ってくることがあります。食事を中止し、腸を安静にすることにより治ります。それでも治らない場合は、イレウス管というチューブを経鼻的に留置し治療します。癒着などで保存的に治らない場合は、腸が捻れたりして虚血(腸の血行が悪くなること)が疑われる場合には緊急で再手術し、壊死腸管(腐っている腸管)があれば、腸管切除が必要になることもあります。
当院では、学会等で推奨されている創感染予防を徹底し吸収糸を使用し抜糸の苦痛をなくしています。しかし数%に傷が膿んでしまう場合や、傷が開いてしまう場合があります。
尿管などに癒着(がんの浸潤・手術操作)があった場合に損傷することがあります。損傷した場合は、泌尿器科に尿管縫合を依頼します。
直腸がんの手術の場合、神経損傷や麻痺により障害が出る場合があります(一時的な場合と永久的な場合があります)。症状が出た場合は、泌尿器科に治療依頼します。
術後のストレスで胃や十二指腸に潰瘍が出来て出血や穿孔(穴が開く)する場合があります。内視鏡治療や薬などで対処します。穿孔した場合は、緊急手術します。

特に高齢者ではせん妄(状態がわからなくなって不隠となる)、認知症の増悪がおこることがあります。人工肛門(ストマ)の壊死・出血・脱落・潰瘍・粘膜脱などの合併症があります。

腹腔内圧の上昇により血管が圧迫されるため、下肢静脈の血液がうっ滞し、血管内に血のかたまり(血栓)ができることがあります。血栓が体中に流れていくと脳梗塞、肺梗塞、心筋梗塞などを起こすことがあります。

以上のように、合併症が起こった場合の適切な対処だけでなく、起こる可能性が高い場合の手術の必要性、術式、危険性の程度、他の治療の選択肢と予想される治療経過や治療の限界などをご理解いただいた上で手術をうけてください。

切除不能・再発大腸がんの治療

化学療法

がんに作用する薬を抗がん剤といい、がん細胞を死滅させたり、がんが大きくなるのを抑える作用をもっています。大腸がんの治療には、抗がん剤を注射する方法や内服する方法があります。

大腸がんに化学療法を行う目的は二つあります。

  • 手術した後に再発を予防すること(補助化学療法)。
  • 手術ではがんが取りきれない場合、大きさをおさえること。

なお、大腸がんの治療は手術による切除が最も効果的ですから、化学療法を手術の代わりとすることはできません。

抗がん剤はがん細胞だけでなく、正常の細胞にも障害を与えます。このため、抗がん剤による副作用が出てきます。副作用は、患者さん自身が身体で感じるものと採血や診察でわかるものとがあります。

自分で気がつくもの

  • 食欲不振
  • 疲労・倦怠感
  • 手足の皮膚障害
  • 脱毛
  • 悪心・嘔吐
  • 味覚障害
  • 口内炎
  • 腹痛
  • 下痢
  • 下血
  • めまい
  • 手指のしびれ
  • 足のしびれ
  • 呼吸困難

検査で分かるもの

  • 白血球・赤血球・血小板の減少
  • 肝機能障害
  • 腎機能障害

など

副作用の種類や程度は、抗がん剤の種類や個人により異なります。副作用を予防する薬も開発されており、特に嘔気・嘔吐に対しては十分な対応ができるようになっています。

「抗がん剤が効いた」とは、がんの大きさが小さくなったことです。治ったことではありません。効いたか効かないかは、 CT、MRI 、内視鏡などの検査で大きさを測って判断します。

大腸がんの化学療法の中心は 5-FU(注射薬)です。
5-FU を内服薬にした薬もあります。

  • UFT
  • フルツロン
  • TS-1
  • ミフロール
  • ゼローダ

など。

通常、5-FU の増強剤であるロイコボリンを 5-FU と併用して使います。
5-FU の投与方法には、急速注射、点滴による長時間投与(持続静脈投与)、内服があります。
イリノテカン(CPT-11)あるいはオキサリプラチン(エルプラッド)を5-FU とロイコボリンに追加して使用します。

大腸がん化学療法導入数
切除不能転移・再発大腸がんに対する化学療法
  • 少なくとも、歩行可能で自分の身の回りのことを行える。
  • 肝臓や腎臓の機能がしっかりしている。
  • 転移・再発が X 線検査や CT、MRI などで映し出せる。
  • 化学療法で大腸がんを治すことはできませんが、生存期間を延長させることが明らかにされています。
  • 持続静脈投与による 5-FU+ロイコボリン+オキサリプラチン(mFOLFOX-6)
  • 持続静脈投与による 5-FU+ロイコボリン+イリノテカン(FOLFIRI)
  • 注射と内服薬の併用 カペシタビン+オキサリプラチン(XELOX)
  • 注射と内服薬の併用 S-1+イリノテカン(IRIS)
  • 注射薬と内服薬の併用 S-1+オキサリプラチン(SOX)
  • 注射または持続静脈投与による 5-FU+ロイコボリン
  • 内服 UFT+ロイコボリン錠
  • 内服 ロンサーフ TAS-102
  • 転移が肝臓に限局している場合、肝動脈に 5-FU を注入する方法もあります(肝動注療法)。
  • アバスチン(抗VEGF抗体:bevacitumab)・・・mFOLFOX-6、FOLFIRI、XELOXとの併用
  • アービタックス(抗EGFR抗体:cetuximab)・・・単剤、CPT-11、FOLFIRIとの併用
  • ベクティビックス(抗EGFR抗体:panitumumab)・・・単剤、FOLFIRI、FOLFOXとの併用
  • スチバーガ(regoragenib)・・・単剤
  • ラムシルマブ(ramucirumab)・・・FOLFIRIとの併用

当院の大腸がん化学療法レジメン 2017年1月現在

化学療法の継続

すべての化学療法を使用することでステージⅣでも生存期間が3年前後まで伸びるようになっています。

術後補助化学療法
  • 手術にてがんをすべて切除しても、約17%は再発します。
  • 再発を抑える目的で補助化学療法が行われます。
  • ステージIIIの大腸がんまたはステージIIの大腸がんで再発の可能性が高いがんに行います。
  • 5-FU とロイコボリンを 6 カ月間注射する方法が一般的です。
  • 内服薬である UFT +ユーゼル錠もしくはゼローダ錠の予防効果が注射療法と同等であることが米国で示されています。
  • 最近は持続静脈投与による 5-FU+ロイコボリン+オキサリプラチン(mFOLFOX-6)や注射と内服薬の併用 カペシタビン+オキサリプラチン(XELOX)も再発予防効果が良い報告があります。
  • TS-1(ティーエスワン)の内服もUFT+ユーゼル錠と同等である結果が報告されました。

府中病院外科では

  • ステージⅡ 低リスク:UFT(ユーエフティー)もしくは治療なし
  • ステージⅡ 高リスク:UFT+ユーゼル療法、カペシタビン療法(ゼローダ)
  • ステージⅢ:XELOX療法、mFOLFOX-6療法、UFT+ユーゼル療法、カペシタビン療法(ゼローダ)

原則6カ月施行しています。

直腸がん術前放射線化学療法

進行直腸がんに対して積極的に術前放射線化学療法を行っています。

放射線とは、目に見えない小さな粒子が非常に大きなエネルギーを持って飛び出す状態、あるいは X 線などの電磁波が光の速さで広がる状態のことをいいます。放射線には細胞の中にある DNA(遺伝子の材料)を傷つける作用があります。放射線療法は、がん細胞の DNA を傷つけて、がん細胞が死ぬように仕向けます。放射線療法は、手術治療と同様に、局所療法です。

「NCCN ガイドライン・大腸がん治療ガイドライン」では、SS/A以深 または所属リンパ節転移症例がフルオロピリミジン併用の術前放射線化学療法の適応となっています。T4 または切除不能局所進行症例は、手術適応症例の拡大や臓器温存手術の可能性が高まることを目指した術前化学放射線療法が適応となります。

大腸がんに対して放射線療法を行う目的は二つあります。

  1. 手術にて切り取れる直腸がんに対して、再発を抑えたり、人工肛門を避けること。
  2. 再発した大腸がんによる症状を和らげること。

スケジュール

  • 化学療法TS-1を併用します。
  • 放射線治療:45~50.4 Gy/25~28回 週5回 土日休み
  • 治療終了後8週あけて手術
    (治療例)放射線治療日に抗がん剤も内服を4週間 平日治療(土日祝は休み)
    放射線 ○○○○○休休○○○○○休休・・・・○○○○○休休△△△
    抗がん剤 ●●●●●休休●●●●●休休・・・・●●●●●終
  • 放射線の治療をするため、手術を受けるのが2カ月あまり遅れる。
  • 放射線照射による患部の癒着等を招き手術が技術的に難しくなる。
  • 照射前に遠隔臓器への微小転移があると、照射による免疫力の低下から微小転移巣の増大を速める可能性も大きい。
  • 照射によって手術の傷の治りが遅れ、感染症等の合併症を起こす可能性が増える。

放射線療法の副作用には、放射線を照射している期間に生じる早期合併症と照射後数ヵ月~数年経った後に生じる晩期合併症があります。

早期合併症

  • 倦怠感、食欲不振や骨髄抑制(白血球や血小板の減少)。
  • 放射線皮膚炎の頻度は高く、火傷のようになることもあります。
  • 頭部への照射では、頭痛、嘔気、脱毛。
  • 腹部・骨盤への照射では、嘔気・嘔吐、腹痛、下痢。

晩期合併症

  • 放射線の蓄積作用により閉塞性血管炎が進み、照射後数カ月から数年後に障害が起こります。
  • 腹部や骨盤腔への照射では、直腸炎、出血、頻便、便失禁、膀胱炎、隣接する臓器(膣、膀胱など)と交通(瘻孔)など。

他に、再発した大腸がんによる症状を和らげるために緩和的放射線療法を行うこともあります。がんによる症状を和らげる目的で行います。骨盤内病巣、骨転移、脳転移、リンパ節転移などに照射します。痛み、出血、神経症状などでは約 80%で症状が改善します。

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下部消化管グループでは「大腸がん」を中心に、さまざまな腸疾患の治療にあたっています。
当院では初発大腸がんの約85%に腹腔鏡下手術を施行し、進行・再発大腸がんに対しては、手術療法・化学療法・放射線療法を組み合わせて治癒を目指す治療を行っています。大腸がんの化学療法は複雑になってきていますが、ガイドラインに沿って個々の患者さんに適した化学療法を外来で安全に行っています。
「直腸がん」に対する術前放射線化学療法や術前化学療法を行うことでステージを下げ、局所再発率を低下させ可能な限り「肛門温存手術」を施行しています。
その他、肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛・直腸脱など)に対しても手術療法を行っています。