胃がんについて

胃がんは全体の割合としては減少傾向にありますが、罹患率では男性1位、女性3位と依然日本人には多いがんの一つです。ひと昔前は、手術以外に治療法がない状況でしたが、近年、内視鏡治療、腹腔鏡手術、開腹手術、抗がん剤治療、分子標的治療と治療の幅が広がってきています。2000年以降は、日本胃癌学会から胃がん治療ガイドラインが出版されており、当科でも治療指針に沿って日常診療を行っております。そして、2009年4月より「大阪府がん診療拠点病院」に指定され、ますます胃がん症例が増加しています。

治療方法

当院の内視鏡治療は消化器内科が施行しており、早期胃がんに対して年間150例ほど施行しております。府中病院と総合健診センター「府中クリニック」で年間10,000件の上部消化管検査が行われており、スペシャリストが治療に当たります。

開腹手術

以前から行われている胃の標準手術です。当院では、出血量の減少、手術時間の短縮のため、超音波凝固切開装置や自動吻合器、縫合器など最新の手術器具を使用し、安全かつ正確に手術を行っています。

腹腔鏡手術

開腹手術で従来行っていた手術を、二酸化炭素でお腹を膨らまし、腹腔鏡を使用して、ハイビジョンのモニターを見ながら行う手術です。時間は多少かかりますが、創が小さく、回復が早い上に、出血量も少ないメリットがあります。当院では、内視鏡外科学会が認定する内視鏡技術認定医(胃)が手術を行っています。上腹部正中に4㎝の開腹創をおいていましたが、現在はより侵襲の少ない完全鏡視下(腹壁に縦切開を置かない)手術に移行しています。 術前の診断が早期胃がんの方に施行してきて、現在再発症例はゼロです。腹腔鏡手術を希望する患者さんに関して、早期胃がんに限らず、進行胃がんにも適応を拡大しています。

進行胃がんの患者さんには、抗がん剤治療が大きなウエートを占めるようになってきています。

  1. 手術を施行した患者さんに対して再発予防のために行う(術後補助化学療法)
  2. 手術の前に抗がん剤で、がんを小さくしてから手術を行う(術前化学療法)
  3. 手術では取り切れない患者さんや、再発した患者さんに行う場合があります。

当院では、がん治療認定医が治療にあたり、化学療法室にて快適に治療が受けられ、薬剤師、看護師と連携をとりながら副作用対策も密に行っています。

トラスツズマブはHER2タンパクを標的としてがん細胞の増殖を阻害する分子標的薬で、これまで乳がんの治療効果を向上してきました。2011年3月にHER2過剰発現が確認された(胃がんの16%程度)治療切除不能な進行・再発の胃がんにも適用が認められ、抗がん剤と併用する形で用いています。

当院の胃がんStage別5年生存率

食道がんについて

我が国で1年間に食道がんに罹患する人はおよそ毎年10,000人ほどで、胃がんの約8分の1程度の発生頻度であります。年齢別にみると40代後半以降に急激に増加しそのほとんどが男性です。食道がんは消化器外科領域の中でも最も治療困難な予後不良のがんの一つであり、他のがんと比較しても悪性度が高く転移も早い段階で生じ、また手術難易度も高く治療を行うにあたり侵襲も非常に大きくなります。

食道がんの治療には、内視鏡治療・手術・抗がん剤治療・放射線治療がありますが、症例によっては集学的治療が必要となるため、当科でも消化器内科・放射線科とも密に連携を行いチーム医療を実践しております。

当科では常に最新の治療を提供し、食道がん手術におきましても定型化を行い、安全で根治性を損なわず患者さんへの負担を最小限にするような最善の治療を目指し日々精進しております。

診断

食道がんの確定診断やがんの拡がり具合を調べるためには様々な検査を行う必要があります。以下のような検査で判断します。

  1. 食道造影検査(レントゲン検査)
    バリウムを飲んでレントゲンで撮影する検査で、食道がんの存在する位置や狭窄の程度などを判断します。
  2. 内視鏡検査
    内視鏡検査では、がんの一部を小さくつまみとって、顕微鏡でがん細胞の有無をチェックし、がん細胞を顕微鏡で確認できれば初めて食道がんと確定診断されます。
  3. CT検査(頸部~腹部)
    身体の内部を輪切りにしたように見ることができるX線検査です。がんと食道周囲の臓器との関係やリンパ節転移、または肺、肝臓などの遠隔転移を調べます。
  4. 超音波検査
    超音波検査は腹部や首(頸部)について行います。腹部では肝臓への転移や腹部リンパ節転移の有無などを検索し、頸部では頸部リンパ節転移を検索します。
  5. PET検査(当院では施行できないため他院へご紹介いたします)
    がんは正常細胞よりも活発に増殖するため、そのエネルギーとしてブドウ糖を多く取り込みます。PET検査では放射性ブドウ糖を注射し、その取り込みの分布を撮影することでがんを検出します。全身の小さな転移を見つけるのに必要です。
  6. 気管支鏡検査(通常は行いません)
    食道の前にある気管にがんが及んでいるかどうかを調べます。
食道がんの発生と進行

食道がんは胸部中部食道に最も高頻度に認められます。がんは食道粘膜から発生し、深達度は粘膜下層、筋層へと順に進行します。食道周囲には気管、肺、大動脈、心臓などの重要臓器が近接しているので、食道壁外にまで腫瘍が進行するとこれらの臓器に浸潤し、状態によっては切除不能となります。粘膜と粘膜下層に留まるがんは表在がん(粘膜までに留まるものは早期がん)、筋層以深のものはすべて進行がんと呼びます。従って進行がんであっても、転移の状態にも影響しますが、早期がんに近いものから末期がんに至るまで様々な進行度の症例があります。

危険因子

我が国で90%以上と頻度の高い扁平上皮がんでは飲酒および喫煙が危険因子として重要であり、その両者を併用することで危険性が増加することが知られています。また食生活においては栄養状態の低下や果物や野菜を摂取しないことによるビタミンの欠乏も危険因子とされ、緑黄色野菜や果物は予防因子とされています。腺がんは我が国では発生頻度は数%でありますが、欧米では約半数以上を占めます。胃食道逆流症(GERD) による下部食道の持続的な炎症に起因するバレット上皮がその発生母地として知られており、胃食道逆流症(GERD)の存在やその発生要因の高いBMI、喫煙などが発生に関与しているという報告があります。

進行度(ステージ)

食道がんの治療方針の決定や、治療によりどの程度治癒する可能性があるかを推定する場合、食道がんの進行の程度をあらわす進行度分類を使用します。我が国では日本食道疾患研究会の「食道がん取扱い規約」に基づいて進行度分類を行います。各検査で得られた結果や手術時の所見、摘出標本の病理検査結果により、深達度・リンパ節転移・他臓器への転移の程度を判断し病期の決定を行います。

「日本食道学会/編 臨床・病理食道癌取扱い規約第10 版」より引用

治療

食道がん治療は内視鏡治療・手術・放射線治療・抗がん剤治療に大別されますが、それぞれの治療には長所と短所があり、初回治療としていずれの治療を選択するかは進行度と全身状態で決定します。症例によっては集学的治療が必要となるため、これらの治療を組み合わせて行う場合もあります。患者さんには十分に病状を説明し納得をいただいた上で、それぞれに一番適した治療法を受けていただきます。

食道がんの進行度診断を壁深達度・リンパ節転移・遠隔転移に基づいて正確に行い、当科では進行度別にガイドラインに沿った適切な標準的治療を行っています。

手術は身体からがんを切り取ることを目指す方法で、食道がんに対する現在最も一般的な治療法であります。手術ではがんを含め食道を切除し、同時にリンパ節を含む周囲の組織を切除します(リンパ節郭清)。食道を切除した後に、食物の通る新しい経路を再建します。がんの発生部位によって選択される術式も異なります。

食道がん手術に関しては、当科では日本内視鏡外科技術認定医のもと2013年4月より胸腔鏡下食道切除術の導入を行い、食道がん診療ガイドラインに基づき個々の患者さんに最適な手術を行っております。

標準的な食道がん根治術

頚部食道を残した食道切除とリンパ節郭清を行い、通常は胃を用いて再建を行います。

鏡視下手術

[利点]

  • 創が小さく痛みが少ないため回復が早いです(早期社会復帰)。
  • 拡大視野で行うため出血が少ないです。
  • 開胸と比較し肺合併症が少ないです。
  • 術後の運動制限がないです。

[欠点]

  • 医師に胸腔鏡手術の技術が必要となります。
  • 時間がかかります。
放射線治療は手術と同様に限られた範囲のみを治療する局所治療ですが、食道を温存することをめざした治療法です。
高エネルギーのX線などの放射線を当ててがん細胞を制御します。
放射線治療は目的により大きく2つに分けられます。がんを治そうとする根治的治療と、がんによる痛みや狭窄などの症状を軽減させる姑息的治療があります。
根治をめざした治療としては1日1回の放射線治療を週5日 5~6週程度行います。

抗がん剤治療はがん細胞を制御する抗がん剤を点滴により投与いたします。抗がん剤は血液の流れに乗って手術では取りきれないところや放射線を当てられないところなど全身に行き渡り効果を発揮します。

[適応]

  • 全身に広がっている進行食道がんの治療
  • 手術後の再発予防(リンパ節転移陽性例)
  • 再発時の治療
  • 手術前に食道がんをできるだけ小さくしてから切除を行う術前治療(術前StageII、III症例)

放射線治療単独よりも抗がん剤療法と併用する方が効果が高くなります。

[理由]

  • 抗がん剤治療が放射線感受性を上げて局所制御率を高めるため。
  • 放射線の照射範囲外の微小な転移を抗がん剤が予防するため。

根治を目指した抗がん剤放射線療法

根治手術の可能な患者さんにも適応があります(手術を望まない人、合併症などで手術のリスクの高い人など)。がんが気管や大動脈などに浸潤していて手術できない場合にも適応となり、治療にてがんが縮小し切除可能となれば根治手術を検討します。

症状緩和を目的とした抗がん剤放射線療法

全身にがんが広がっており根治的治療はできないが、がんで食事が通過しないなど、局所的な効果により患者さんに利益があると予測される場合に行います。

がんの進行度や全身状態が不良であり積極的治療が困難である場合に、痛みや他の苦痛に対する症状緩和を目的とした治療です。

がんによる食道の狭窄のため食事摂取が困難な場合に、金属の網でできたパイプ状のステントを食道の中に留置して、一時的に食物が通過できるようにする治療です。また食道に穴があいて消化液や食物が外に漏れて肺炎・膿胸などを起こす場合には、穴をおおうためにも使用します。

処置時間はだいたい1時間以内であり、全身麻酔ではなく鎮静剤を注射し行います。

当科での治療方針
術前・術後管理
[術前]

食道がん術後は特に呼吸器合併症が問題となりますので、外来初診時より禁煙指導をさせていただき、同時に呼吸器リハビリを行い喀痰排出訓練を行っていただきます。

[術後]

呼吸器リハビリに加え嚥下リハビリが必要となります。 合併症がなければ、術後1週間程度で飲水、食事が開始となり、早ければ3週間前後で退院可能な状態となります。

手術実績

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食道・胃・十二指腸にかけて、悪性腫瘍を中心に診療にあたっています。
近年、治療は手術だけでなく、抗がん剤治療、分子標的薬など多岐にわたります。また、食道がんに対しては、当院でも施行可能な放射線治療が重要な位置を占めます。患者さんには、それぞれの進行度にあったベストの治療を最新の知識と経験をふまえて施行しています。
さらに、鏡視下(胸腔鏡・腹腔鏡)手術に力を入れており、体にやさしい最新の技術を患者さんに提供しています。