お薬を飲んでいる方が注意すべきこと
すべての薬には、飲み合わせの悪いもの(相互作用があるもの)や副作用もあります。ですから、自分のかかりつけの医師や薬剤師に、今どんな薬を飲んでいるのか、お薬手帳をみせて確認してもらいましょう。
また、お薬手帳を医療機関や保険薬局ごとにわけている方もいますが、それでは意味がありません。
自分の薬のすべてがわかるよう、1冊にまとめ、どの医師や薬剤師にも同じ手帳を確認してもらうことで、重複している薬や飲み合わせの悪い薬の発見につながることもあります。
心不全治療でのお薬の役割
心不全治療で使用する薬では、残念ながら心不全の原因となった病気を完治させることはできません。しかし、続けることで、症状を改善したり、心不全悪化による入院を防いだりすることは可能です。
心不全治療薬の目的は、2つあります。
1つ目は、今のしんどさをとること(症状緩和)です。心不全の症状である息苦しさや横になって眠れないなどの症状をとることを目的で使う薬です。
2つ目は薬を飲んでいないときよりも、より長く心臓が働けるようにすること(予後改善)です。心不全が悪くなって、入院してしまうリスクをできるだけ減らし、長生きできるようにすることを目的で使う薬です。
薬の効果な治療を受けるために
これらのお薬は「飲み続けること」が重要です。調子が悪いときは医師に伝え、調整が必要かを判断してもらいましょう。この調整の際に大切なのが、「正直に伝える」ことです。
「実はこの薬飲んでないけどな」というのを黙ったまま、「足がむくんできました」「ちょっと歩くと息切れが・・・」と症状だけを伝えると、本来身体に必要な調整ができず、かえって悪化させてしまうことこあります。
医師や薬剤師とあなたの想いは、同じ「心臓を悪くしないこと」です。ですから、思いが叶えられるよう、パートナーとして一緒に考えていきたいと思います。
次回から、それぞれのお薬について詳しく書いていきますので、またご覧ください。
心不全の悪化予防に、適度な運動は重要です!
心不全とは「心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」だと言われます。
そのことを踏まえると「心臓が悪くて息切れやむくみがあるのに運動していいの?」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、現在は心臓リハビリテーションとして運動療法は入院早期より開始されています。入院中から治療のひとつとして開始するものですので、退院後も自己管理として運動はぜひとも取り入れていただきたい要素になります。また運動習慣をつけ、活動量を上げることは身体機能(=体力)の向上・維持にもなるため心不全の悪化予防にもなります。
心不全に対する運動療法の効果
心不全に対する運動療法は以下のような効果があると言われています。
- 心肺機能がよくなり、体力が改善します。
- 筋力・体力がつくと、身体活動時にかかる心臓の負担が減ります。
- 血栓ができにくくなり、冠動脈の再狭窄やバイパス閉塞を予防します。
- 動脈硬化の進行をさまたげ、原因となる危険因子を改善します。
- 自律神経が安定し、ストレスも解消します。
- 心不全の悪化を予防し、入院を防ぎます。
次に、運動の種類と運動を安全に行うための方法や注意点について説明します。
生活の中に適度な運動を取り入れましょう!
一般的には以下のことが言われています。
②運動の強さは、自分の能力の5~7割程度、つまり、やや息が切れ、軽く汗ばむ程度、「楽である」~「ややきつい」と感じる程度がよいとされています。
③運動の量・頻度は以下の通りです。
-
有酸素運動:1回5~10分から開始し30~60分まで徐々に増やしましょう。週3~5回程度が目安です。
-
筋力トレーニング:上半身・下半身それぞれの種目を8~12回×1~2セット行いましょう。週2~3回程度が目安です。※上半身は心臓への負担が強くなるので、下半身よりも楽にできる範囲にしましょう。※また種目も少しずつ増やすようにしましょう。
④運動前後に準備体操・整理体操を行い、必要な人にはバランスの訓練(片脚立ちなど)やストレッチを含めると良いでしょう。
⑤日頃の体調チェックを行い、息切れや動悸、体重増加、むくみを認めるときは運動を中止し、医師の診察を受けましょう。無理をすると心臓に負担がかかり、心不全の悪化につながる可能性があります。
無理のない範囲で体調を考慮して運動を行いましょう!!
ぜひ運動を生活の中に取り入れ、心不全の悪化を予防し、いきいきとした生活を送っていきましょう。
なぜ減塩が必要なの?
心不全患者さんが再入院する原因の上位に「塩分・水分のとりすぎ」が挙げられます。
塩分が多い食事では、血液中のナトリウム濃度(塩分濃度)が濃くなり、薄めるために喉が渇きやすくなることで水分を取り過ぎてしまい、体に水を溜めたりしやすくなります。また、塩分には血圧を上げる作用もあります。
体に水が溜まること、血圧が上がることは心臓に負担をかけるため、心不全の悪化に繋がります。
そのため、塩分・水分を摂りすぎないことを心がけることが心臓への負担をかけないために大切となります。
減塩を意識した食事の工夫
①1日3食、バランスよい食事をしましょう
食事は以下の3つを揃えた食事を意識しましょう。
- 主食(ご飯、パン)
- 主菜(肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などタンパク質食品のおかず)
- 副菜(主に野菜やきのこ・海藻を使用した料理)
②減塩を心がけましょう
【塩分の多い食品・料理】
-
麺類:食べる頻度を減らしましょう。食べるときには必ず汁を残し、野菜を摂るようにしましょう。
-
汁物:1日1杯以内にしましょう。野菜などを多く入れて具沢山にしましょう。
-
漬物、佃煮:梅干しは1個塩分2g以上あるため食べるのは控えましょう。毎食、毎日食べないようにしましょう。
【減塩のコツ】
- 鮮度の良い食品や旬の食材を用いて、そのものの味を楽しみましょう。
- だしの風味を活かしましょう。
市販の顆粒だしは塩分が多く含まれているものもあります。塩分無添加のものを選択する、だしを手作りなどしましょう。
- 酸味(酢・レモン)や香辛料(わさび・辛子・こしょう・唐辛子)で薄味を補いましょう。
- 焼く、揚げるなどの香ばしさで味覚に変化を加えましょう。
- 和食だけでなく適度に洋食も組み合わせましょう。
醤油や味噌の味つけばかりになると塩分摂取量が多くなりがちです。
③野菜を摂りましょう
野菜には体内の余分なナトリウムの排出を促す働きがあるカリウムが多く含まれています。
- カリウムは水に流れやすい性質があるため、生野菜を少しでも摂るようにしましょう。
- 加熱する場合には、茹でるよりも炒める・レンジ加熱などの調理方法を活用しましょう。
食欲の低下にも注意しましょう
過度の塩分制限は、食欲不振を招き、食事量を低下させる危険もあります。
食事の量が減ってしまうと、体重減少や栄養不良の原因となりますので注意が必要です。
- 食欲がない時は、好きな物を食べましょう
- 体重の減少があれば、医師や看護師に相談しましょう
心不全の治療では、自己管理が重要!
治療のところでも触れましたが、心不全の治療では、お薬の治療やお薬以外の治療をしっかり行っても、ご自身に生活管理(自己管理)が出来ていないと、簡単に心不全が悪化(再発)してしまいます。これまでも、自己管理できるよう指導を行ってきましたが、なかなか心不全の悪化は減りませんでした。
そこで、2018年、大阪心不全地域医療連携の会により、心不全患者さんの自己管理ツールである「ハートノート」が作成され、大阪府下で使用されるようになり、当院でも2018年8月から使用を開始しています。
ハートノートの目的は大きく2つあります。①心不全に対する正しい知識を学び、自己管理が出来るようにする。②「心不全ポイント」を用いて、毎日の体調を評価し、その点数が高くなれば、早期に医療機関を受診し、心不全の重症化を防ぐことです。心不全で入院した患者さんは、ハートノート(青い表紙)を用いた多職種からの指導を受け、心不全ポイント自己管理用紙(白い表紙)に毎日の状態を記録し、退院後もこれを継続します。
心不全ポイントで体調をチェックし、悪化すれば早期に受診
3点:1週間以内に受診、4点:当日、または翌日には受診、5点以上:時間に関係なくすぐに救急外来を受診 です。
ハートノートを用いた自己管理は、心不全悪化による再入院を予防します
このように、ハートノートを用いて心不全に対する正しい知識と自己管理方法を身につけ、心不全ポイントによる日々の体調をチェックし、変化があれば早期に医療機関を受診することで、心不全悪化による入院を減少させる効果があることが示されています(Nakane E, et al. J Cardiol.2021;77:48-56.)。そのため、現在、ハートノートは大阪府下の急性期病院を中心に使用が広がっており、当院でも積極的な使用を進めています。
心不全の悪化を未然に防ぐために
「心不全とは」でも説明しましたが、心不全が悪化し、入院での治療が必要となれば、そのたびに身体機能(=体力)が低下してしまいます。入院した患者さんには、ハートノートを用いた心不全教育と適切な自己管理が出来るよう指導を行い、2回目以降の再入院予防を目指します。しかし、心不全の状態が比較的安定している時期に、これらの指導を行えば、心不全悪化による再入院を予防できると考えます。それが「心不全教育入院」です。心不全が悪化してからの「治療目的の入院」ではなく、これから心不全を悪化させないための「教育入院」です。
短期間で体験しながら学びます
ハートノートを用いた心不全指導は、病状にもよりますが、1週間かけて行われますが、心不全教育入院では、ほぼ同じ内容の指導を3泊4日の短期間で集中的に行います。指導は、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士など多職種が担当し、それぞれの患者さんの病状や生活習慣・運動習慣をもとに、心不全を悪化させないために必要な指導(個別指導)を行います。入院中は塩分6g/日の減塩食を食べたり、自転車エルゴメーターを使った運動療法を行うなど、実際に体験してもらい、退院後も実践できるような指導を行います。また、ハートノートを用いた自己管理の方法についても学んでいただき、退院後も正しい自己管理が継続できるような指導を行います。