心不全地域連携パス

心不全の患者さんを地域全体で治療する

心不全と長く、うまく付き合う

心不全が悪化した時は、入院も含めた病院での治療が必要となります。病状が安定した後も、心不全を悪化させないために長期にわたる治療の継続と適切な自己管理が重要となりますが、心不全以外の病気を合併していることも多く、複数の医療機関に通院しなけらばならないことがよくあります。

そこで、お薬の調整が終わり、心不全の病状が安定した方は、心不全も含めた定期的な診療をかかりつけ医で受けていただくようにしています。病院と地域のかかりつけ医が連携・協力し治療を行うという意味で、「病診連携」と言います。

心不全地域連携パスによる治療の継続

よく、病院から離れるのが心配という声を聞きます。現在、地域の人々がいつでも安心して医療を受けれるような医療体制を作るために、病院(特に急性期病院)とかかりつけ医の役割をしっかり分けることが推奨されています。かかりつけ医は、普段からいろんな病気をまとめて患者さんの診療にあたり、体調不良になれば、まず最初に対応します。その結果、検査や入院での治療が必要と判断すれば、すぐに病院へ紹介します。病院は、紹介された患者さんを受け入れ、必要な検査や治療を行い、病状がよくなればかかりつけ医に再度紹介します。しかし、「心臓のことは専門医でないと心配」と意見もありますが、それを解決するのが、心不全地域連携パスです。心不全で入院治療され、ハートノートを使用している患者さんは、退院後、病状が安定すれば、心不全地域連携パス(治療の継続に必要な重要事項を書いたもの)を持ってかかりつけ医へ紹介します。その後は定期的にかかりつけ医による診療を受けてもらいますが、6カ月に1回は病院を受診してもらい、その間の病状チェックと必要な検査を行います。その結果をかかりつけ医に報告し、治療の変更や継続を依頼します。このように心不全地域連携パスを用いることで、心臓の専門医とかかりつけ医の二人の主治医があなたの診療を行うことができます。

和泉市医師会もサポートしています

和泉市医師会では、心不全患者さんの病診連携を進めるために、2021年、「心不全地域連携推進委員会」を設立しました。また、医師会では、ハートノートを用いた病診連携に積極的に協力していただける医療機関には、連携協力医療機関に登録いただき、患者さんにもわかりやすいよう、写真のようなプレートを受付などに表示いただいています。当院正面玄関にも、このプレートを表示し、登録医療機関の一覧表を掲示しておりますので、ぜひご覧になってくだい。
このように、和泉市では病院とかかりつけ医が連携し、地域全体で心不全患者さんの診療に努めていきたいと考えています。

運動について

心不全の悪化予防に、適度な運動は重要です!

心不全とは「心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」だと言われます。

そのことを踏まえると「心臓が悪くて息切れやむくみがあるのに運動していいの?」と思われる方もいるかもしれません。

しかし、現在は心臓リハビリテーションとして運動療法は入院早期より開始されています。入院中から治療のひとつとして開始するものですので、退院後も自己管理として運動はぜひとも取り入れていただきたい要素になります。また運動習慣をつけ、活動量を上げることは身体機能(=体力)の向上・維持にもなるため心不全の悪化予防にもなります。

心不全に対する運動療法の効果

心不全に対する運動療法は以下のような効果があると言われています。

  • 心肺機能がよくなり、体力が改善します。
  • 筋力・体力がつくと、身体活動時にかかる心臓の負担が減ります。
  • 血栓ができにくくなり、冠動脈の再狭窄やバイパス閉塞を予防します。
  • 動脈硬化の進行をさまたげ、原因となる危険因子を改善します。
  • 自律神経が安定し、ストレスも解消します。
  • 心不全の悪化を予防し、入院を防ぎます。

次に、運動の種類と運動を安全に行うための方法や注意点について説明します。

生活の中に適度な運動を取り入れましょう!

一般的には以下のことが言われています。

①運動の種類はウォーキング・自転車・軽いエアロビクス運動などに代表される「有酸素運動」と自分の体重やチューブ、ダンベルを使った「筋力トレーニング」が推奨されます。
※注:ジョギング、水泳,激しいエアロビクスダンスは推奨されません。
  

②運動の強さは、自分の能力の5~7割程度、つまり、やや息が切れ、軽く汗ばむ程度、「楽である」~「ややきつい」と感じる程度がよいとされています。

③運動の量・頻度は以下の通りです。

  • 有酸素運動:1回5~10分から開始し30~60分まで徐々に増やしましょう。
    週3~5回程度が目安です。
  • 筋力トレーニング:上半身・下半身それぞれの種目を8~12回×1~2セット行いましょう。
    週2~3回程度が目安です。
    ※上半身は心臓への負担が強くなるので、下半身よりも楽にできる範囲にしましょう。
    ※また種目も少しずつ増やすようにしましょう。

④運動前後に準備体操・整理体操を行い、必要な人にはバランスの訓練(片脚立ちなど)やストレッチを含めると良いでしょう。

⑤日頃の体調チェックを行い、息切れや動悸、体重増加、むくみを認めるときは運動を中止し、医師の診察を受けましょう。無理をすると心臓に負担がかかり、心不全の悪化につながる可能性があります。

無理のない範囲で体調を考慮して運動を行いましょう!!

ぜひ運動を生活の中に取り入れ、心不全の悪化を予防し、いきいきとした生活を送っていきましょう。

食事について

なぜ減塩が必要なの?

心不全患者さんが再入院する原因の上位に「塩分・水分のとりすぎ」が挙げられます。

塩分が多い食事では、血液中のナトリウム濃度(塩分濃度)が濃くなり、薄めるために喉が渇きやすくなることで水分を取り過ぎてしまい、体に水を溜めたりしやすくなります。また、塩分には血圧を上げる作用もあります。

体に水が溜まること、血圧が上がることは心臓に負担をかけるため、心不全の悪化に繋がります。

そのため、塩分・水分を摂りすぎないことを心がけることが心臓への負担をかけないために大切となります。

減塩を意識した食事の工夫

①1日3食、バランスよい食事をしましょう

食事は以下の3つを揃えた食事を意識しましょう。

  • 主食(ご飯、パン)
  • 主菜(肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などタンパク質食品のおかず)
  • 副菜(主に野菜やきのこ・海藻を使用した料理)
おかずを2倍食べると塩分摂取も2倍になります。
おかずばかり食べずご飯とバランスよく食べることも大切です。
②減塩を心がけましょう
目標は1日塩分6g未満です。
塩分の多い料理を控え、薄味になれるようにしましょう。
  

【塩分の多い食品・料理】

  • 麺類:食べる頻度を減らしましょう。
    食べるときには必ず汁を残し、野菜を摂るようにしましょう。
  • 汁物:1日1杯以内にしましょう。
    野菜などを多く入れて具沢山にしましょう。
  • 漬物、佃煮:梅干しは1個塩分2g以上あるため食べるのは控えましょう。
    毎食、毎日食べないようにしましょう。

【減塩のコツ】

  • 鮮度の良い食品や旬の食材を用いて、そのものの味を楽しみましょう。
  • だしの風味を活かしましょう。
    市販の顆粒だしは塩分が多く含まれているものもあります。
    塩分無添加のものを選択する、だしを手作りなどしましょう。
  • 酸味(酢・レモン)や香辛料(わさび・辛子・こしょう・唐辛子)で薄味を補いましょう。
  • 焼く、揚げるなどの香ばしさで味覚に変化を加えましょう。
  • 和食だけでなく適度に洋食も組み合わせましょう。
    醤油や味噌の味つけばかりになると塩分摂取量が多くなりがちです。
③野菜を摂りましょう

野菜には体内の余分なナトリウムの排出を促す働きがあるカリウムが多く含まれています。

  • カリウムは水に流れやすい性質があるため、生野菜を少しでも摂るようにしましょう。
  • 加熱する場合には、茹でるよりも炒める・レンジ加熱などの調理方法を活用しましょう。

食欲の低下にも注意しましょう

過度の塩分制限は、食欲不振を招き、食事量を低下させる危険もあります。

食事の量が減ってしまうと、体重減少や栄養不良の原因となりますので注意が必要です。

  • 食欲がない時は、好きな物を食べましょう
  • 体重の減少があれば、医師や看護師に相談しましょう

自己管理ツール「ハートノート」について

心不全の治療では、自己管理が重要!

治療のところでも触れましたが、心不全の治療では、お薬の治療やお薬以外の治療をしっかり行っても、ご自身に生活管理(自己管理)が出来ていないと、簡単に心不全が悪化(再発)してしまいます。これまでも、自己管理できるよう指導を行ってきましたが、なかなか心不全の悪化は減りませんでした。

そこで、2018年、大阪心不全地域医療連携の会により、心不全患者さんの自己管理ツールである「ハートノート」が作成され、大阪府下で使用されるようになり、当院でも2018年8月から使用を開始しています。

ハートノートの目的は大きく2つあります。①心不全に対する正しい知識を学び、自己管理が出来るようにする。②「心不全ポイント」を用いて、毎日の体調を評価し、その点数が高くなれば、早期に医療機関を受診し、心不全の重症化を防ぐことです。心不全で入院した患者さんは、ハートノート(青い表紙)を用いた多職種からの指導を受け、心不全ポイント自己管理用紙(白い表紙)に毎日の状態を記録し、退院後もこれを継続します。

心不全ポイントで体調をチェックし、悪化すれば早期に受診

心不全ポイントは、次の4つの項目に設定されています。
  
①体重:予定外受診の体重(心不全が疑われる体重)を超えれば3点、超えていなければ 0点
②脈拍数:120回/分を超えればら4点、超えていなければ 0点
③安静時の息切れ・息苦しさ:あれば5点、無ければ 0点
④次の4項目(・労作時の息切れ ・むくみ ・せき(空咳) ・食欲低下)に1つでも当てはまれば 1点、すべて無ければ 0点
  
これら4項目に付けた点数の合計点が、その日の体調の評価になります。0〜1点は体調に特に問題がないと考えます。しかし、3点以上になれば、心不全の疑い、あるいは心不全を発症している可能性があり、早期に医療機関への受診が必要であり、その目安は

3点:1週間以内に受診、4点:当日、または翌日には受診、5点以上:時間に関係なくすぐに救急外来を受診 です。

ハートノートを用いた自己管理は、心不全悪化による再入院を予防します

このように、ハートノートを用いて心不全に対する正しい知識と自己管理方法を身につけ、心不全ポイントによる日々の体調をチェックし、変化があれば早期に医療機関を受診することで、心不全悪化による入院を減少させる効果があることが示されています(Nakane E, et al. J Cardiol.2021;77:48-56.)。そのため、現在、ハートノートは大阪府下の急性期病院を中心に使用が広がっており、当院でも積極的な使用を進めています。

心不全教育入院について

心不全の悪化を未然に防ぐために

「心不全とは」でも説明しましたが、心不全が悪化し、入院での治療が必要となれば、そのたびに身体機能(=体力)が低下してしまいます。入院した患者さんには、ハートノートを用いた心不全教育と適切な自己管理が出来るよう指導を行い、2回目以降の再入院予防を目指します。しかし、心不全の状態が比較的安定している時期に、これらの指導を行えば、心不全悪化による再入院を予防できると考えます。それが「心不全教育入院」です。心不全が悪化してからの「治療目的の入院」ではなく、これから心不全を悪化させないための「教育入院」です。

短期間で体験しながら学びます

ハートノートを用いた心不全指導は、病状にもよりますが、1週間かけて行われますが、心不全教育入院では、ほぼ同じ内容の指導を3泊4日の短期間で集中的に行います。指導は、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士など多職種が担当し、それぞれの患者さんの病状や生活習慣・運動習慣をもとに、心不全を悪化させないために必要な指導(個別指導)を行います。入院中は塩分6g/日の減塩食を食べたり、自転車エルゴメーターを使った運動療法を行うなど、実際に体験してもらい、退院後も実践できるような指導を行います。また、ハートノートを用いた自己管理の方法についても学んでいただき、退院後も正しい自己管理が継続できるような指導を行います。

心不全教育入院をお勧めしたい方

次の様な方にお勧めします。
  
①現在、心不全で治療を受けているが、入院するほど悪化したことのない方
②以前に心不全の悪化で入院し治療を受けたが、それ以降入院するようなことはないが、時々薬を調整しないといけない方
  
心不全の治療に、油断は大敵です。心不全が悪化する前に、一手打ちましょう!