乳房温存手術

乳房温存手術は、腫瘍を含む乳腺を部分的に切除する手術です。手術後も乳房のふくらみと乳頭が保たれますが、切除した分だけ小さくなったり、少し変形したりします。全く同じ大きさ・形で温存されるという意味ではありません。腫瘍の大きさ・場所によっては、変形がほとんどわからない場合もあります。

見た目によい形の乳房を残すという手術ですので、腫瘍の大きさ(複数ある場合はその合計)に制限があります。3cm以下が目安となりますが、腫瘍の形や乳房の大きさなどで相対的に判断します。“見た目によい形”は主観的判断になりますので、変形が強くなっても患者さんの希望があれば実施することもあります。手術前の薬物療法で腫瘍を小さくすることで、乳房温存手術ができるようになる場合もあります。

温存した乳房・乳腺から局所再発してくる可能性があります。これを防ぐために、手術後に乳房に放射線治療を行います。何らかの理由でこの放射線治療ができない場合は、乳房切除術に変更することもあります。

乳房切除術

乳房切除術は、腫瘍を含む乳腺のすべてと、乳腺とつながる乳頭・乳輪を切除する手術です。乳房切除術では乳房のふくらみはなくなります。乳房再建手術を前提に、乳房の皮膚や乳頭・乳輪を残して、乳腺だけすべて取るという手術もあります。腫瘍が広範囲に拡がっている場合や、複数の腫瘍が離れた場所にある場合などに選択されます。

乳房再建手術を組み合わせて行うこともあります。

乳房再建手術

乳房再建とは、手術によって失われた乳房のふくらみを、形成外科の手術によって再び作ることをいいます。再建手術を行う時期や手術の回数、再建の方法によって、さまざまな組み合わせがあります。それぞれにメリット・デメリットがあります。乳がん手術の方法、反対側の乳房の大きさ・形、生活様式(仕事、運動、出産の可能性など)を考えて再建方法を決めます。放射線治療を行うと皮膚が伸びにくくなり、乳房再建の方法が制限されます。これまでに放射線治療の経験がある場合、または、乳がん治療で放射線治療を行う予定がある場合は、乳腺外科と形成外科の専門医を交えて、乳がんの手術方法および乳房再建の手術方法を相談することが必要です。

再建手術を行う時期
  • 一次再建:乳がん手術と同時に乳房再建手術を行う
  • 二次再建:乳がん手術後に日を改めて乳房再建手術を行う
手術の回数
  • 一期再建:1回の手術で乳房再建を行う
  • 二期再建:2回に分けて手術を行う(1回目:皮膚を伸ばす,2回目:乳房のふくらみを作る)
再建の方法
  • 自家組織による再建:おなかや背中の皮下脂肪・筋肉などを乳房に移動させてふくらみを作る
  • 人工物による再建:シリコンでできた人工乳房(インプラント)を入れてふくらみを作る
乳頭再建
  • 乳がん手術で乳頭・乳輪を切除した場合に、形成外科手術で乳頭の形を作ることもできます

「乳房再建手術の方法」

人工乳房(インプラント)
後背筋皮弁再建術(LD)
腹直筋皮弁再建術(TRAM)

腋窩リンパ節郭清

乳がんはわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)に転移して拡がっていくため、そのリンパ節をまわりの脂肪組織ごと一塊に取り除く「腋窩リンパ節郭清」と言う手術が行われます。しかし、リンパ節郭清を行うと、肩の運動障害や腕のむくみ(リンパ浮腫)などの後遺症(後述)をおこし、日常生活に支障をきたす可能性があります。

そのため、過去には治療のため全員にリンパ節郭清を行っていた時代もありましたが、現在ではセンチネルリンパ節生検を行ってなるべくリンパ節郭清を行わないようにしています。手術前に腋窩リンパ節に転移があるとわかっている場合にはリンパ節郭清を行います。

センチネルリンパ節生検

治療前の検査で、リンパ節転移の可能性が低いと判断された場合は、まず「センチネルリンパ節生検」という手術が行われます。センチネルリンパ節とは、腋窩リンパ節の中で最初にがん細胞が転移するリンパ節のことです。このセンチネルリンパ節だけを切除して、ここにがん細胞の転移があるかどうかを調べる検査が、センチネルリンパ節生検です。ここに転移がなければ、その他のリンパ節にも転移がないと考えられるため、腋窩リンパ節郭清は行いません。最近では、ごく少数のがん細胞が見つかっても、そこから次のリンパ節に転移していないと判断できれば腋窩リンパ節郭清を行わないようになっています。逆に、多数のがん細胞の転移が見つかった場合は、他のリンパ節にも転移が拡がっている可能性があるため、腋窩リンパ節郭清を追加で行います。

手術後の注意

漿液腫
手術をした創の中に浸出液(傷の表面からにじみ出る黄色っぽい液体,“きしる”と言ったりします)が溜まります。手術時にドレーンという柔らかい管を創の中に入れて、この浸出液を吸い出す処置をします。浸出液の量が減ってきたらドレーンを抜きます。通常はドレーンが抜けるまで入院です。
ときどき、ドレーンを抜いた後にまた浸出液が溜まってくることがあります。これを漿液腫と言います。漿液腫が大きい場合は注射針を刺して中の浸出液を抜く処置をします。この処置は外来通院でできます。
 
知覚障害

手術をした乳房や、手術をした側の腕の内側に、しびれや皮膚感覚の低下が起こることがあります。これは、皮膚の裏側で乳腺を切ったり、わきの下のリンパ節の手術をしたりするときに、皮膚につながる神経を切ってしまうことがあるためです。しびれは数週間で治ることが多いですが、皮膚感覚の低下は残る場合もあります。筋肉を動かす運動神経は傷つけないよう注意して手術を行います。

肩の運動障害
腋窩リンパ節郭清を行った場合、わきの下に傷ができます。この傷が硬くなってしまうと伸びなくなって、手をあげたり腕を後ろに回したりすることができなくなってしまいます。そうならないように、手術後に肩から腕のリハビリテーションを行います。
センチネルリンパ節生検だけを行うなど、腋窩リンパ節郭清を行わなかった場合は、肩の運動障害はあまり起こりません。
 
腕のむくみ(リンパ浮腫)

腋窩リンパ節郭清を行った場合、わきの下の傷のために腕のリンパの流れが悪くなり、腕から手にむくみ(浮腫)がでることがあります。リンパの流れが悪くなりむくむため、これをリンパ浮腫と言います。リンパ浮腫をおこさないように予防することが大切ですが、起きてしまった場合にはマッサージや圧迫処置を行います。

感染しやすくなる

リンパ節は本来、外から入ってきた病原体に対抗するための組織です。そのため、腋窩リンパ節郭清でリンパ節を取った場合、手術をした側の腕や手では、病原体に対する抵抗力が弱くなります。具体的には、腕や手をけがした時に傷口が化膿しやすくなります。また、この感染(化膿)が原因でリンパ浮腫になることもあります。

乳房温存療法は乳房温存術と温存乳房への手術後の放射線照射をセットに行う治療法で、しこりを含めた乳房の一部分とリンパ節郭清を行い、乳房のふくらみや乳首を残す手術(乳房温存術)を行った後に放射線治療(原則必須)を行います。

乳房温存療法は臨床病期が原則0、I、IIまでの乳がんや術前化学療法で縮小したがんに適応がある局所治療で、美容的にも美しく乳房を残すことが目的となります。乳房全摘出術と比し生命予後に差がないことが証明されています。

以下のいずれかにあたる場合には乳がんの乳房温存療法の適応にならず、乳房切除術が行われます。

  • 乳がんが広範囲にわたって広がっている場合(微細石灰化が認められる場合)
  • 2つ以上のしこりが同じ側の乳房の離れた場所にある場合
  • 患者さんが乳房温存療法を希望しない場合
  • 術後の放射線療法が行えない場合

乳房温存療法が行われた場合には、術後補助療法として放射線療法を行うことが標準的です。乳房温存療法における手術の役割は、目に見える乳がんのしこりを切除することです。一方の放射線療法の役割は、手術だけでは取りきれない可能性のある、目に見えない乳がんの細胞に対して行うものになります。

乳房温存手術の放射線療法

乳房温存手術が行われた場合には、原則として放射線療法を行う必要があります。乳房温存療法における手術の役割は、目に見える乳がんのしこりを切除することです。一方の放射線療法の役割は、手術だけでは取りきれない可能性のある、目に見えない乳がんの細胞に対して行うものになります。そのため、乳房温存療法では手術と放射線療法を行うことが標準と考えられているのです。ただし、放射線療法を行っても再発を100%防ぐことが出来るわけではありません。

ハルステッド法は乳房とわきの下のリンパ節だけでなく、乳腺の下にある大胸筋や小胸筋を切除します。かつてはこの手術方法が標準的手術方法として実施されてきましたが、現在ではほとんど行われることはなくなりました。

胸筋温存乳房切除術は乳房とリンパ節を切除して胸筋を残す手術方法です。通常「乳房切除」という時にはこの術式をさします。

当院では形成外科専門医とともに、乳房再建を行っております。

乳がんの予後乳がんのステージ別の5年生存率
  • 1期  98.2%
  • 2期  91.5%
  • 3期  67.8%
  • 4期  31.5%

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