こんにちは、府中アイセンター通信編集担当の谷川です。

早い人では40歳代から症状が出始める白内障は、70歳以上になるとほとんどの人が白内障になっているそうです。白内障の症状が進むと、かすみや光をまぶしく感じるなど、日常生活に支障をきたします。何よりも転倒の危険性が高まるため、アイセンターでは少しでも症状を感じたら早目の受診をお勧めしています。

白内障は『水晶体の濁り』が原因であり、そのほとんどが加齢によるとされていますが、加齢による目の変化には『老眼』もあります。白内障同様、40歳代から焦点を合わせる調整力が衰え、近くのものが徐々に見えづらくなります。文庫本や新聞など小さな文字を読む際には老眼鏡をかけ、遠くを見る際には老眼鏡を外すなど本当に煩わしいですよね。

最近、白内障手術の際に多焦点眼内レンズを選択すると老眼鏡の煩わしさを減らせると聞きました。

今回は『進化を続ける多焦点眼内レンズの魅力』として、三島部長にお話を伺いたいと思います。

谷川:
まず、白内障手術で使用するレンズの種類について教えてください。
  
三島部長:
白内障手術で使用するレンズを機能で分けると、『単焦点眼内レンズ』『多焦点眼内レンズ』の、二種類になります。『単焦点眼内レンズ』はある一点に焦点を合わせたレンズに対し、『多焦点眼内レンズ』は複数(二か所もしくは三か所)に焦点を合わせたレンズになります。
  

さらに、『単焦点眼内レンズ』は保険診療で行えるのに対し、『多焦点眼内レンズ』は一部保険診療で取り扱えますが、ほとんどのレンズは選定療養※1もしくは自由診療※2の扱いとなります。

※1 2020年4月より多焦点眼内レンズ手術の選定療養が開始され、保険診療である白内障手術費用に多焦点眼内レンズ費用と必要検査費用(自費)が患者負担となります。

※2 自由診療は、国内で承認されていない多焦点眼内レンズの使用となり、レンズ費用と白内障手術費用それに伴う診療費用が自費で患者負担となります。

『多焦点眼内レンズ』の魅力

谷川:
大きく分けて『単焦点眼内レンズ』と、『多焦点眼内レンズ』があると言う事ですね。では、それぞれのレンズの特徴は如何でしょうか。
  
三島部長:
『単焦点眼内レンズ』の最大の特徴は、焦点が一か所である事です。焦点を合わせたポイント以外を見る際には眼鏡が必要となります。例えば、近くに焦点を合わせた場合には、パソコンや新聞は見易くなりますが、外出する際には眼鏡が必要になります。逆に、遠くに焦点を合わせた場合は、パソコンや新聞を見る際には老眼鏡が必要となります。どちらにしても、日常的に眼鏡の使用が必要です。
  
対して、『多焦点眼内レンズ』は焦点が複数に合う事が最大の特徴です。例えば、3焦点であれば近く、中間、遠くと焦点を合わせる事ができるので、より自然な見え方に近く眼鏡の使用頻度が減らせます。
  
保険診療で対応できる一部の『多焦点眼内レンズ』は2焦点レンズで、焦点を中間と遠くに合わせるので、老眼鏡の使用が必要となりますが、老眼鏡の使用に煩わしさを感じていない方であれば保険診療で行える『多焦点眼内レンズ』は選択肢の一つかもしれませんね。
谷川:
老眼鏡使用頻度を減らせるのは『多焦点眼内レンズ』という事ですね。より自然な見え方に近づくのは、大きな魅力ですね。
  
三島部長:
確かにそうですね。日常生活では常に一点を見て生活している訳ではなく、遠くを見たり近くを見たりして生活していますから。例えば、テレビを見る時は中間距離から遠くに焦点を合わせていて、他の番組を探そうとして新聞に目を移した時は近くに焦点を合わせています。
  
また、買い物に行った時の事を考えてみましょう。建物内の案内図を確認する時は遠くや中間距離に焦点を合わせ、エレベーターのボタンを押す時は近くに焦点を合わせています。人ごみに注意を払う時には中間距離や遠くに焦点を合わせ、売り場に向かえば、近くに焦点を合わせて商品を確認する。この様に、人は日常生活の中で焦点を遠くや中間距離に合わせたり近くに合わせたりを連続的に、しかも自然に行っています。
  
この目の働きを眼鏡のかけ外しで対応する事は難しく、どうしてもうまく見えないところが出てしまいます。
  
その点、『多焦点眼内レンズ』であれば、それぞれの距離で焦点が合うので白内障や老眼が進む前の見え方に近くできると言う事です。

『多焦点眼内レンズ』のデメリットとは

谷川:
『多焦点眼内レンズ』の魅力を伝えていただきましたが、デメリットってありますか。
  
三島部長:
もちろん、『多焦点眼内レンズ』には良い事ばかりではなく、デメリットもあります。
  
『単焦点眼内レンズ』と比較して、一般的に言われているデメリットはコントラストが少し低下する事です。
  
コントラストは映像のシャープさや濃淡を意味します。これはレンズの構造上仕方のない事ですが約15%程度コントラストが低下すると言われています。ですが、『多焦点眼内レンズ』も進化を続けており、コントラストの低下が抑えられたレンズも出てきています。
  
また、夜間に異常光視症(ハロー・グレア)があります。これもレンズの構造上仕方のない事ですが、光のまわりに輪がかかっているように見えるハローや、強い光を眩しく感じるグレアという現象が起こります。ただし、生活や仕事に影響するほどではないと言われています。この現象もレンズの進化によって、低減させるレンズが出てきています。ですが、車の運転を職業にしている方は『多焦点眼内レンズ』の選択には慎重になる必要があります。
  
この様に、『多焦点眼内レンズ』には、魅力的なメリットもありますが、反面デメリットもある事を十分知っていただく必要があります。

単焦点眼内レンズではハロー・グレアはほとんど認めない

多焦点眼内レンズではハロー・グレアを認める

谷川:
おっしゃる通り『多焦点眼内レンズ』のデメリットもしっかり理解して選択する必要がありますね。患者さんが『多焦点眼内レンズ』を理解していただくためにアイセンターではどうされていますか。
三島部長:
アイセンターでは、レンズの説明を眼科領域の国家資格を持つ視能訓練士が担当しています。『多焦点眼内レンズ』のメリット・デメリットを説明し、患者さんの生活スタイルを確認したうえで適切なレンズを選択いただけるよう丁寧な説明を心がけながらやってくれています。我々医師も説明しますが、視能訓練士が説明する方が患者さんはわからない事や不安な事も聞きやすいようです。
谷川:
では、『多焦点眼内レンズ』の持つ高い性能がもれなく発揮できるように、アイセンターで行っている事があれば教えてください。
  
三島部長:
最も大切な事は『多焦点眼内レンズ』の手術を受ける患者さんの術後の見え方の理解だと思っています。そのために、手術前に視能訓練士がレンズの説明を行っています。
  
次は、眼内レンズ選択のポイントとなる手術前検査です。アイセンターでは、眼軸長測定をドイツの光学機器メーカーであるZeiss社のIOLMaster700を用いて、患者さんに適したレンズ度数を決定しています。
  
ですが、手術中の目の変化で手術前のレンズ度数とわずかな誤差が生じる事があり、この誤差が手術後の見え方に影響します。
  
そこで、アイセンターではAlcon社のORAシステムを導入し、手術中に生じたわずかな誤差をリアルタイムで補正し最適なレンズ度数を選択できるようにしています。
  
アイセンターでは検査装置から手術治療装置まで先進医療機器を導入し『多焦点眼内レンズ』の性能を十分に引き出せるようにしています。
眼軸長を測定するIOLMaster700
手術中に生じた誤差を補正するORAシステム
谷川:
三島部長、本日はありがとうございました。最後にアイセンターの抱負をお聞かせください。
  
三島部長:

アイセンターでは、白内障手術を受ける全ての方がご自身にあった適切なレンズを選択し、クリアな視界を取り戻し生活の質が向上するよう、地域に貢献したいと思います。

三島 壮一郎
三島 壮一郎Soichiro Mishima
府中アイセンター/部長