1.肝臓の機能と構造

肝臓は右上腹部に位置し周囲を肋骨で囲まれており、脳とともに人体最大の実質臓器です。また肝臓は代謝機能の中枢であり、消化管で吸収された栄養を蓄えたり、薬剤を代謝したり毒物を解毒したり、タンパク質を合成したりと様々な機能を営んでいます。

2.肝臓手術の適応疾患

肝臓手術は多くの場合、肝内に発症した悪性腫瘍に対しておこなわれます。肝臓の悪性腫瘍としては何らかの慢性疾患を基礎として発症する肝細胞がん、肝臓の中を走行する胆管から発症する胆管細胞がん、他臓器の悪性腫瘍が肝臓に転移した転移性肝がんの3つが代表的なものです。悪性腫瘍以外では肝内結石症や肝のう胞・肝膿瘍などに対して肝臓手術をおこなうことがあります。

3.肝細胞がんとは

肝細胞がんは日本人の部位別がん死亡数の男性で4番、女性では6番目に多いがんです。肝細胞がん患者の約70%がC型肝炎ウイルス陽性、15%がB型肝炎ウイルス陽性でありB型またはC型肝炎ウイルス陽性である方は、肝細胞がんをおこしやすい高リスクであるといえます。また、慢性肝炎から肝硬変へと肝臓が傷んだ状態になるほど、肝細胞がんが発生しやすくなります。近年、B型またはC型肝炎ウイルスに有効な治療法が開発され、B型肝炎やC型肝炎も治せるようになってきました。肝炎を治すことで、肝細胞がんの発生するリスクが低下し、肝細胞がんの予防につながるものと考えられます。肝炎ウイルス以外の肝細胞がんの発生原因としては、アルコール多飲によるアルコール性肝障害・肝硬変や肝臓に脂肪が蓄積し生じる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などがあり、生活習慣が原因と考えられる肝細胞がんの患者さんが増加しています。

4.肝臓がんの検査方法

1)血液検査

背景にある慢性疾患や腫瘍の影響により、血液中の肝臓、胆道系の酵素(AST、ALT、ALP、γ-GTP)や黄疸の値(ビリルビン)が上昇することがあります。肝臓の機能を評価するためICG負荷試験をおこない、治療にともなうストレスに肝臓が耐えうる力、また手術後にどれくらいの肝臓を残す必要があるのかを判断します。肝細胞がんではAFP、PIVKA-Ⅱが腫瘍マーカーとして利用され、胆管細胞がんや転移性肝がんではCEAやCA19-9 などが腫瘍マーカーとして有効です。

2)画像診断

超音波検査、CT、MRI検査をおこない腫瘍の状態(位置、大きさ、個数など)を確認することが重要です。当院では手術をおこなうにあたりCT画像から3D画像を構築し、肝臓内の血管と腫瘍の位置関係の把握をおこなっています。

5.原発性肝がんの病期(ステージ)

腫瘍因子、リンパ節転移因子、遠隔転移因子の3つの因子から進行度(ステージ)が分類されます。

  • 腫瘍因子(T因子)

①腫瘍個数単発、②腫瘍径2cm以下、③脈管(門脈、肝静脈、胆管)侵襲なし、の項目にいくつあてはまるかによりT1~T4に分類されます。

T1 : ①②③の項目にすべて合致

T2 : ①②③のうち2項目に合致

T3 : ①②③のうち1項目に合致

T4 : ①②③の項目すべてに合致せず

  • リンパ節転移因子(N因子)

リンパ節転移なしN0 リンパ節転移ありN1に分類されます。

  • 遠隔転移因子(M因子)

遠隔転移なし M0 遠隔転移ありM1に分類されます。

病期(ステージ)

T因子N因子M因子
ステージ1T1 N0M0
ステージ2T2N0M0
ステージ3T3N0M0
ステージ4A
T4
T1~T4
N0
N1
M0
M0
ステージ4BT1~T4N0 N1M1

6.治療方針

肝細胞がん治療のアルゴリズム

日本肝臓学会 肝がん診療ガイドライン 2017年度版より一部抜粋・改変

①手術、②局所治療、③塞栓療法、④化学療法(抗がん剤治療)、⑤肝移植が主体になります。

 

①手術:

手術によってがんを周囲の肝組織を含めて切除する方法で最も確実な治療法であり、肝機能がゆるせば第一選択の治療としています。肝臓がんの多くは肝硬変をともなっており、肝機能が保たれていることが条件となります。手術の大きさと肝機能を考慮し、安全性が高い場合には手術の適応となります。手術の条件として腹水の貯留や黄疸などの肝不全の兆候がないことや血液検査でICG試験をおこない肝予備能を検討します。

②局所療法:

経皮的に肝臓を針で穿刺し、腫瘍にエタノールを注入したりマイクロタ-ゼやラジオ波などの熱凝固によりがんを焼灼、壊死させる方法。一般的には腫瘍が3cm以下、3個以内が適応となります。

③塞栓療法(肝動脈塞栓化学療法):

肝臓は肝動脈と門脈から栄養や酸素を供給されていますが、肝臓がんはほとんどが肝動脈によって栄養されています。塞栓療法とは腫瘍を栄養している動脈を塞栓することで腫瘍を血流不全に陥らせ、壊死させる治療法です。局所麻酔下に鼠径部や腕から選択的にカテーテルを腫瘍の栄養血管に挿入し、高濃度の抗がん剤を局所に投与し、かつ腫瘍を栄養している動脈を塞栓物質で詰め、腫瘍を壊死させます。治療の利点は局所麻酔下のカテーテル治療で侵襲が少ないこと、肝機能が悪い方でも治療できるケースが多いことですが、欠点としては塞栓治療だけでは完全壊死をえることが困難で根治性が劣ることで、再燃した場合は治療を繰り返す必要があります。

④化学療法:

前述のような治療法が選択できない場合、遠隔転移がある場合には抗がん剤、分子標的薬を投与します。肝動脈から局所に高濃度の抗がん剤を流す動注化学療法をおこなう場合もあります。

⑤肝移植:

基準をみたす患者さんには肝移植が保険適応となっています。日本では生体肝移植が一般的であり、肝臓を提供してくださるドナーの協力が必要です。適応基準をみたし肝移植を希望される患者さんは経験豊富な病院に紹介させていただきます。

当科の特徴

肝胆膵外科高度技能指導医・高度技能専門医を中心にチームを構成し、肝切除を安全におこなうための工夫をおこなっています。術前には最新の画像解析ソフトを用いて、切除ライン、切除範囲のシミュレーションをおこなっています。ICG試験、シンチグラフィーを併用し正確な肝機能評価をおこない、大量肝切除が必要で、残肝容積が不十分な場合は経皮的門脈塞栓術(PTPE)をおこない、切除予定側の門脈を塞栓し、温存側の肝臓を肥大させた後に手術をおこなうことで、術後の肝不全を防ぐ工夫をおこなっています。

術中は各種血管の先行処理をおこなったり、各種の手術デバイスを併用することで、出血量の少ない手術を実現しています。

また最近では侵襲のすくない腹腔鏡下肝切除やロボット支援下手術も積極的に導入しています。

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診療内容

肝胆膵外科領域の診療にはそれぞれの臓器特有の専門的な知識が要求され、難易度の高い手術も多く、高度の技術が必要です。
当院では肝胆膵外科高度技能指導医を中心に術前門脈塞栓術併用肝切除、血管合併切除などの高度な手術も行っており、最近では腹腔鏡下の肝切除、膵切除も導入しています。
また、肝胆膵領域がんでは切除不能がんも多く、患者さんのQOLを考えた化学療法や放射線療法などの集学的治療を行っています。