ホルモン療法

ホルモン療法の作用機序

ホルモン感受性のあるがん細胞では、女性ホルモン(エストロゲン)が細胞の中にある受容体(レセプター)に結合することで細胞が活性化し、細胞分裂してがんが増殖していきます。そこで、エストロゲンを減らしたり、レセプターと結合しないようブロックしたり、レセプターの数を減らしたりして、がんが増殖しないように治療します。この治療をホルモン療法と言います。

ホルモン療法の副作用

エストロゲンの量が減少したり、その作用が阻害されたりするため、更年期症状と類似した副作用がある。

Hot flash(のぼせ)、頭痛、めまい、関節のこわばり・痛み・腫脹、高コレステロール血症、骨粗しょう症    など

抗HER2療法

(ハーセプチン)

「HER2/neu」という特定の遺伝子が関与する乳がんに対して、トラスツズマブ=ハーセプチンという薬を用いて治療を行います。HER2検査をすることで、ハーセプチンやタイケルブの効果が期待できる「がん」とそうでない「がん」がわかるため、切除した乳がんのHER2検査は不可欠な検査であるといえます。

化学療法の副作用

乳がんの抗がん剤治療により血液をつくる細胞がダメージを受け、白血球減少や赤血球減少、血小板減少などの副作用を高頻度で生じます。乳がんに対する化学療法では、患者さんが抗がん剤の副作用により死亡することが稀にですがあります。治療関連死で最も多いのは白血球や好中球減少による重篤な肺炎や敗血症などの感染によるものですから、これらの血液検査の数値が低下した場合には注意が必要です。

白血球減少(好中球減少)が起きると乳炎などの感染症を起こしやすくなります。また発熱が続くこともあります。白血球や好中球の減少に対しては、G-CFS(顆粒球コロニー刺激因子)などを使用することがあります。

赤血球が減少することで貧血になったり、血小板減少により出血しやすくなったり、あざができやすくなったり、注射の跡が消えにくくなるなどの副作用が現れることがあります。

これらの副作用を骨髄毒性といいます。骨髄毒性は目に見える副作用ではないため一般の方は軽視しがちですが、実は命にかかわることが少なくない副作用ですから抗がん剤の投与中は注意深く骨髄毒性が許容範囲内であるかをチェックする必要があります。

乳がん治療で抗がん剤が投与されると多くの方で吐き気や嘔吐をおこします。下痢をする方もいらっしゃいます。使用する抗がん剤の種類により吐き気や嘔吐が起きやすい抗がん剤もあれば、あまり激しい副作用を伴わないものもあります。場合によっては極度の脱水症状により衰弱してしまう可能性もあります。

乳がん治療では脱毛を起こしやすい抗がん剤(アドリアマイシンやパクリタキセル、ドセタキセルなど)が使われることが少なくありません。脱毛は治療直後ではなく治療開始から2、3週間経過して始まることが多いようです。

乳がん治療で用いられる抗がん剤の副作用として、動悸や息切れ、体のむくみ、筋肉や関節の痛みなどが現れることがあります。

手足症候群といって手のひらや足の裏に刺すような痛みがあったり、手足の感覚がまひしたり、皮膚の乾燥やかゆみ、変色などの症状が現れることがあります。口内炎や倦怠感(だるさ)、皮膚や爪の変色、味覚障害、肝機能障害なども副作用で現れます。

化学療法(抗がん剤治療)
  • CMF …C(シクロホスファミド=エンドキサン)とM(メソトレキセート)、F(フルオロウラシル=5FU)の3剤を組み合わせた治療法です。
  • CAF …C(シクロホスファミド)とA(アドリアシン)、F(フルオロウラシル=5FU)の3剤を組み合わせた治療法です。
  • AC …A(アドリアシン)とC(シクロホスファミド)の2剤を組み合わせた治療法です。ECE(エピルビシン)とC(シクロホスファミド)の2剤を組み合わせた治療法です。
  • FEC …F(フルオロウラシル=5FU)とE(エピルビシン)、C(シクロホスファミド)の3剤を組み合わせた治療法です。
  • タキサン系薬剤 …ドセタキセル=タキソテール、パクリタキセル=タキソールなどを使った治療法です。
内分泌療法(ホルモン療法)

乳がん患者さんの60%から70%はエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンによってがん細胞が増殖するホルモン感受性の乳がんです。乳がんのホルモン療法はからだの中で作られるエストロゲンを減らしたり、エストロゲン受容体をふさいでエストロゲンとの結合を邪魔することで、がん細胞の増殖を抑えるものです。乳がんのがん組織を調べ、ホルモン感受性があると診断された場合にホルモン療法の効果が期待できます。副作用が比較的少なく、長期間使えるのが特徴です。

乳がんの治療に用いるホルモン剤にはいくつかの種類があり、閉経前と閉経後とで治療に使う薬剤も異なることがあります。閉経前の女性は、主に卵巣でエストロゲンが作られます。一方閉経後には副腎で作られるアンドロゲン(男性ホルモン)が脂肪などにある酵素の働きでエストロゲンに変換されます。

閉経前の女性の卵巣機能をストップさせ一時的に閉経後の状態にし、エストロゲンの分泌を抑えるLH-RHアゴニスト(ゾラデックス、リュープリンなど)と呼ばれる薬です。乳がん治療でこのホルモン剤を用いると更年期障害に似た「ほてり、発汗、冷え」などの症状が現れます。

閉経後の女性に対しては、アロマターゼ阻害剤(閉経後、脂肪でエストロゲンをつくる酵素をブロックするアフェマ、アリミデックス、アロマシン、フェマーラなど)と呼ばれるアロマターゼ活性を抑えてエストロゲンの産生をとめるタイプのホルモン剤もあります。エストロゲンが受容体に結合することを防ぎ乳がん細胞の増殖を抑える働きをする抗エストロゲン剤(エストロゲンががんに働くのをブロックする=タモキシフェン、トレミフェンなど)を使うこともあります。乳がん治療でこのホルモン剤を長期間使用することにより子宮体がんのリスクが若干高くなるという報告もあるため子宮体がんの定期検査をする必要があります。

気分の落ち込みやホットフラッシュ-更年期障害

気分の落ち込みやホットフラッシュ(のぼせやほてり)などの更年期障害は女性ホルモンであるエストロゲンが少なくなることで起こります。エストロゲン減少により体温調整がうまくできなくなり皮膚の血流が増えて顔面の紅潮や発汗などの症状が現れたり、不安や動悸などの症状を伴うこともあります。

その他の副作用

  • タモキシフェンなどでは血液が固まりやすくなるため血栓ができ合併症をおこすことがあります。
  • エストロゲンを減少させるLH-RHアゴニストやアロマターゼ阻害剤を使用すると、骨がもろくなり骨折しやすくなります。骨粗鬆症のある方はその治療も併用して行う必要があります。
  • アロマターゼ阻害剤では関節のこわばりや関節痛などが高頻度で見られます。
  • 性器から出血や膣分泌物の増加、膣の乾燥や炎症などの症状が現れることもあります。
  • タモキシフェンにより子宮体がんになるリスクが2~3倍増えると言われています。

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